第15話・あんた達、いい気にならない事ね
そんなある日のこと。彼女が再び姿を見せた。
「マリーちゃん、お迎え来たよ。一緒にお昼しよう!」
メローネがお弁当を持って現れたのだ。何しに来たと、マリーザはメローネを睨み付けたくなった。彼女は気にしてなかった。教室の中へずかずかと入ってきて、クラスメイト達は何が始まるのかと興味深げに注目してくる。
「お従兄さまがね、ぜひ、マリーちゃんと食事したいって。話したいことがあるんだって。お従兄さまに頼まれたの。だから中庭に行って食事をしようよ」
「お断りよ。あなた達の顔も見たくないわ」
「ええ。どうして?」
「今更、何なの?」
今まで交流するのを嫌がってきたくせに、マリーザが婚約破棄を突きつけた途端、言い寄ってくるなんて。あの陰険眼鏡と内心、唸りたくなる。
「まだこの間のこと怒っているの? あれは誤解だってば。お従兄さまが謝りたいって言っていたよ」
「あなた達は謝れば気が済むのかも知れませんけど、私は許しませんよ」
「そんなこと言わないで。だからマリーちゃんは堅苦しいって言われるんだよ。そんなんじゃ、嫌われるよ?」
メローネがこちらを窺うように言ってきた。その態度が苛ついた。
「嫌うって誰が?」
「それは男の子達に……?」
マリーザの反論に、メローネがタジタジとなる。今まではマリーザは受け流して、相手にしてなかった。メローネは、こうして言い返されるとは思わなかったのだろう。
「あなた達の取り巻きにいくら嫌われようと、私は気にしないわ」
「私は気になるんだってば。兎に角、お従兄さまと仲直りして」
「嫌よ」
腕に取りすがってきたメローネを振り払うと、彼女が睨み付けてくる。
「何よっ。あんたなんて、お従兄さまとの婚約が破棄されたなら、嫁のもらい手もなくなるくせに……!」
「それがあなたの本音なの? メローネ」
マリーザは冷たく見返した。メローネは、周囲の人達の目が険しいことに気がついたようだ。
「メローネ嬢って失礼すぎない? マリーザさまが嫌がっているのに、無理矢理連れて行こうとするなんて」
「しかも自分の言うことを聞かないからって、侮辱するなんて最低だな」
「みっともない。だから許婚の一人もいないんじゃないか?」
「ああ。嫌だわ。あのような人がいると、この学園の品位が疑われるわ」
「本当だよな。礼儀もなってないし、まして許婚がいる相手に言い寄る女なんて。まるで妾にでもしてくれって言われているみたいで不快だ」
クラスメイト達が男女問わず、口々に言い始めるとメローネは何も言えなくなった。そこへジオヴァナが止めを刺した。
「メローネさま。悪いけどマリーは私とお昼はいつも一緒に取っているの。何の御用でいらしたか知らないけど、このクラスに関係ない御方は、出て行って頂けるかしら?」
ジオヴァナの言葉に、メローネは怒った。
「あんた達、いい気にならない事ね。そのうちバチがあたるんだからっ」
メローネは悔しそうに睨み付け、去り際に捨て台詞を吐いて去って行った。バチがあたるのはどっちだと言い返したい気持ちを抑えて、マリーザは見送ることにした。本気で相手をするだけ無駄な相手だ。出来ればこれ以上、関わり合いたくもない。
ため息を漏らしかけたところで、ジオヴァナに扮しているシルヴィオと目が合う。彼には不憫そうな目を向けられた。でもこれでしばらくは、はた迷惑な相手はクラスを訪れることもないだろうし、静かになると思っていたら、向こうは向こうで懲りもせず、何やら画策していたとはマリーザは、知らなかった。
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