第13話・メローネの狙いはカッソさま?


 翌日。お昼休み時間に、ジオヴァナになりきっているシルヴィオと連れだって、マリーザは旧校舎の裏庭に来ていた。ここならあまり人目もないので、内緒話をするに相応しいと思ったのだ。

 校舎の反対側にあるベンチには、赤毛の男子生徒が腰を下ろしているのが見えたが、ここからはかなり距離もあるし、会話が聞かれることはないだろう。


 マリーザは木陰にシートを敷き、シルヴィオとお昼を取ることにした。お互い、食堂で購入したパンや、サンドイッチを手にしている。飲み物は水筒を持参していた。


「ヴィオもジオから話は聞いていると思うけど、メローネは一体、誰を狙っていると思う?」

「今のところは分からないな。まだハッキリしてないと思うよ」

「相手が誰か分かれば手の打ちようもあるかと思ったのだけど、そう簡単にはいかないかしらね」


 ジオヴァナから、シルヴィオも彼女が転生者だという事は知っていると聞いていた。


「でもニコラスは違うと思うの」

「どうして?」

「私の家に彼がメローネを連れてきた時、あまりにも呆れて、彼に『新たな婿入り先が見つかって良かったですね』と、言ったら、メローネがニコラスさまを押し付けないでくれって、言ってきて、自分には他に結婚したい人がいるから、勝手に決めないで欲しいって言っていたから」


「彼女にはすでに選ぶ相手が決まっているってこと?」


「ジオには言わなかったけど、ニコラスさまはメローネを連れて、ちょくちょくお買い物をしていたようなの。うちの侍女達が調べてくれたんだけど、その中に攻略相手のカッソさまのお店も含まれていたのよ。メローネはニコラスさまを利用して、カッソさまと顔を繋ぎたかった気がするわ」

「そうなると懸念していることがあるんだ」

「なに?」


「彼女にもジオ同様に、記憶があるんじゃないかってこと」

「メローネが前世の記憶持ち?!」

「そんなに大きな声を上げたら駄目だよ。誰かに聞かれたらどうするの?」


 しぃっと、シルヴィオが口元に人差し指を当てる。マリーザは謝罪した。


「あ。ごめんなさい。驚いて……。でも、あり得なくないかも。彼女は私と初対面の時に、『あんた、お助けキャラのマリーザでしょう?』って興奮して指を差してきて、『まだ、仲良くなるのは早いか?』と、意味不明な事を言っていたわ。その時から彼女は、私にとって変な人物でしか無いわ」

「彼女にも記憶があるなら、お気に入りの人物に接近する為に、動き出していると思うよ。ジオも思っていたように、この世界が彼女達の知る、乙女ゲームの世界だと思い込んでいるのなら尚更ね。その傾向が強いと思う」

「なるほど。ジオの言っていたゲームをしている側の気分で、お目当ての男性に言い寄るために行動を起こすかも知れないって事ね?」

「その通り」

「彼女はニコラスさまと、カッソさまにはすでに近づいたことになるわね。ニコラスさまでないのはハッキリしているけど、彼女が狙っているのはカッソさまではないのかしら?」


 そこに丁度、話題の主の悲鳴に近いような声が校舎の反対側から聞こえたような気がして、マリーザはシルヴィオと顔を見合わせた。

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