第12話・気が利かない家庭教師
「こんな話ってある? 心優しいジオが悪役令嬢? そんな訳ない。何かの間違いよ。これが本当に起こりかねないのなら、神さまもどうかしていると思うわ」
憤慨するマリーザに、ジオヴァナは耳を疑うようなことを言った。
「そしてあなたはそのヒロインであるメローネを助ける役割を持つ、お助けキャラなの」
「何それ?! メローネを私が助ける? 何で? 今まで散々、あの子には迷惑をかけられて来たのよ。尻拭いばかりさせられて来た。迷惑だわ」
「ごめんなさいね。マリー」
「全然、ジオは悪くないから謝らないで。悪いのはあの子よ。ジオを酷い目に合わせるなんて許せないわ。安心して。私はジオの味方だから。あの子が何かしでかそうとしてもあなたを助けるわ」
「僕も同じ思いだよ。僕のお姫さまはジオ以外にあり得ないからね」
「ありがとう。マリー。リーノさま」
ジオヴァナは泣きそうな顔をしていた。それを見てマリーザはふと思った。
「もしかしてジオが発作を起こすようになったのって、メローネが関係していたりする?」
「あの子に初めて会った時に、気が動転してしまって、最悪な結末しか思い描けなくなって絶望したの。私の知っているストーリーが展開されそうで怖かった」
「そんなことには絶対、ならないからね。マリー」
「リーノさまを信じてはいるけど、胸騒ぎがして収まらないの。リーノさまが彼女に取られでもしたら、私平気ではいられないわ」
震えるジオヴァナの手に、サンドリーノは己の手を乗せた。
「僕を信じて。ジオ」
「リーノさま」
マリーザは、親友と王子の未来を支えたいと心の底から思った。メローネが今後、二人の仲を引き裂くような真似をしたらただじゃおかないと心に決めた。
「お嬢さま」
そこへ若い男性の美声がした。反射的に振り返ったマリーザは、想像とは違った見た目の相手に少しだけがっかりした。美声の主は声の印象とは違って、むさ苦しい見た目だった。目元まで隠れたライムグリーン色の髪に、黒縁の分厚い眼鏡をしている。年の頃は自分達とそう変わらないように感じるけれど、やや年上のようも思える。
「サント。どうしました?」
「そろそろお勉強のお時間でございます」
「分かったわ。もう少しお二人とは話していたかったけど、ここでお開きにしましょう。またいらしてね。リーノさま、マリー」
「では我々はここでお暇しよう」
ライムグリーン色の髪をした男の言葉に、素直に応じるジオらを見て、マリーザも慌てて二人にならって椅子から立ち上がった。
「ジオ。あのこちらの御方は?」
「まだマリーには紹介していなかったわね。こちら私の家庭教師のサントさまよ。サントさま、こちらは私のお友達のマリーザさま」
「はじめまして。ミラジェン子爵の娘マリーザと申します。宜しくお願い致します」
「はじめまして。お嬢さまから話は良く伺っております」
ジオヴァナに紹介されて、挨拶すると分厚い眼鏡の男は微笑んだ。そこに品の良さのようなものが感じられた。エスメラルダ公爵令嬢の家庭教師になるぐらいなのだから、どこかの高位貴族のご子息と思われる。
それにしても気が利かないような気がする。許婚同士が会っているというのに、勉強の時間だと言って強制的に終了させるのは如何なものなのか? たかが家庭教師が口出す権利ってある?
でも当の二人が気にしている様子もないので、マリーザは黙って退出することにした。
──あの眼鏡男、わざとじゃないでしょうね?
お似合いのカップルをもう少し堪能したかったマリーザは、スッキリしない気持ちを抱えて帰宅することになった。
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