第11話・ジオヴァナの告白


「でも、ニコラスさまがそんなに夢中になる女性って誰だったの?」

「サロモネ男爵令嬢よ」

「えっ? あの? 色々とお騒がせのご令嬢メローネさま?」

「信じられないでしょう? よりによって彼女の母親が、ニコラスさまのお父さまの義理の妹で、二人が従兄妹同士だなんて悪夢よ」


 マリーザは自分でも半信半疑なのだと、ジオヴァナにメローネとニコラスが、従兄妹になった経緯を話した。


「彼女がニコラスさまと従兄妹? 嘘? そんな設定聞いたこともない。色々と齟齬が出て来ているのかしら? ニコラスさまが攻略されてしまうなんて、やはり彼女にも記憶があるのかも知れないわ」

「ジオ? 設定とか攻略ってなんの話?」


 ジオヴァナの口から、聞き慣れない言葉が出てきたと思っていると、彼女は殿下と目配せあった。


「どうしたの? ジオ。何かあるの? 私に言えないこと? 言いたくないことなら無理して言わなくとも良いけど?」

「マリーザの口の堅さは信用しているわ。これはわたしに問題があって……。あなたに話しても信用してもらえるかどうか……、自信がないの」

「マリーザ嬢なら大丈夫だと思うよ。あのシルヴィオも信用しているし」


 不安がるジオヴァナを、隣の席に座る殿下が後押しする。ジオヴァナには何か秘密があって、それを彼女の兄であるシルヴィオと、殿下は共有しているように思えた。彼女は思案した後に言った。


「実はね、マリーが信じてくれるかどうか分からないけど、私には前世の記憶があるの」

「……?」


 思いもしなかったジオヴァナの告白に、マリーザは唖然とした。





 

 ジオヴァナは言った。自分はこの世に生まれる前の世界の、記憶があるのだと。その記憶を持ってこの世界に生まれてきたと。

 突然明かされた彼女の秘密に、マリーザは驚いたが、ジオヴァナが嘘をつくような人物ではないことを知っているので、疑う余地はなかった。


 ジオヴァナの話によると、自分達の生きているこの世界は、前世のジオヴァナが知る、少女向けの恋愛攻略ゲームの中の世界で、そのヒロインが「メローネ」で、ジオヴァナが「悪役令嬢」なのだと言う。

ヒロインであるメローネは平民だったが、男爵に引き取られて養女となり、このピエラ学園に入学して素敵な男子生徒と知りあい、恋愛遊戯を展開していくのだという。


 その恋愛相手となるお相手が、サンドリーノ王子と、宰相の息子ニコラス、近衛隊長の息子のルアンに、宝石商のカッソ、そして間諜のシル。


 どの彼を最終的にメローネが選ぶかによって、悪役令嬢の結末が決まっているらしく、サンドリーノ王子が選ばれた場合、ジオヴァナは、メローネを虐めていたことが取り沙汰されて愛想を尽かされ婚約破棄の上、醜聞を慮った父親から縁を切られて修道院行き。


 彼女がニコラスやルアンを選べば、王子と婚姻はするものの、メローネを虐めていた事が公となり、王子に知られて別居となる。その後、王子は愛人を作って公爵邸に帰って来なくなる。


 カッソを選ぶと、メローネを虐めていた事を知られて、社交界に顔が効く彼の怒りを買い、社交界で不評が広がり顔を出せなくなり、生涯公爵邸に引きこもって暮らすことになる。殿下とは仮面夫婦となる。

 シルを選べば、彼に怒りを買った時点で暗殺されてしまう。ヒロインがどの相手を選んでも、悪役令嬢であるだけあって、自分はハッピーエンドになり得ないのだと、ジオヴァナは悲観していた。

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