第10話・その事はまだ親友にも話してないのですが
「ミラジェン嬢。あいつに婚約破棄を突きつけたんだって?」
「……殿下。誰からそのお話を?」
数日後。ジオヴァナのお誘いを受けてエスメラルダ公爵家のお屋敷を伺えば、そこには彼女だけではなく、許婚のサンドリーノ殿下がいた。席に着くなり問われて驚いた。その事は親友であるジオヴァナにもまだ話してないのに。
実はあの後、父に事情を話してセレビリダーデ家に遣いを送ったら、宰相から丁重なお詫びと、息子を教育し直すから婚約破棄は留まってもらえないかと言われたのだ。つまり婚約破棄について現在、保留となっている。
マリーザの気持ちの上では、婚約破棄一択しかないが。正式に婚約破棄が決まった訳ではないので、ジオヴァナに話せていなかった。
「殿下、そのことはジオヴァナさまにもまだ、話してないことだったのですが」
「ごめん。あいつから聞いたんだ。ニコラスとは、同じ生徒会役員だからね」
「……」
サンドリーノ殿下は、ピエラ学園の生徒会会長をしている。殿下の言葉に、ニコラスは副会長だったと思い出した。生徒会役員同士でそれなりに付き合いがあるらしい。
親友にもまだ話してないことを、話題にして欲しくなかったと恨みがましく殿下を睨めば、苦笑が返ってきた。
「あいつ肩を落としていたよ」
「口ではなんてでも言えますから。あの方は殿下に取りなしを頼んできたのですか?」
「いいや。あいつが珍しく落ち込んでいるから気になっただけ。あいつは、いつも自分以外の者を見下して自信満々なところがあったから、これで反省してくれれば良いとは思っているよ」
サンドリーノ王子は、誰にでも気さくな態度で接し、温厚な性格から全校生徒に好かれていた。その殿下もなかなか辛辣なことを言う。
ニコラスの無駄にプライドの高い部分は悪癖とも言える。もしかしたら温厚な殿下にここまで言わせるのだから、彼はマリーザの知らないところで、生徒会役員にも、嫌味なことを言っていたのではないかと思った。
「でも最近は、性格が丸くなってきたように思っていたのだけどね。実に残念だよ」
「マリー、ニコラスさまと何かあったの?」
殿下の含んだ物言いが、ジオヴァナは気になったようだ。もともと親友に隠して置く気はなかったので、ここで話すことにした。
「ジオにはハッキリ決まってからお話をした方がいいと思っていたのだけど、実は彼がね、珍しく私のもとを訪ねて来たと思ったら、女性連れだったの。しかも悪びれることもなく、私の目の前でその女性を可愛いと褒め称えた上に、彼女が許婚だったらどんなに良かったかと、血迷ったことを言い出したから、お別れしようとしただけよ」
二人はいちゃいちゃして見苦しかったわ。と言えば、ジオヴァナに大いに同情された。
「まあ、酷い。そんな人、婚約破棄でいいわよ。マリーを傷つけるなんて最低っ」
「ジオもそう思う?」
「思うわ。ニコラスさまって寡黙だけど、マリーには誠実な人かと思っていたのに……」
「しかもね、彼は私のことを、勉強しか取り柄のない面白みのないガリ勉女とも言ったし、金の力でのし上がってきた、商人上がりの貴族令嬢と馬鹿にもしたわね」
「うわあ、それはないよね? あのニコラスがそんなこと言ったの? 信じられないんだけど」
殿下も唖然としていた。殿下から見たニコラスは、無駄にプライドが高くとも、真面目な男性で許婚以外の女性にうつつを抜かすようには思えなかったのだろう。
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