第7話・許婚の訪問
それから一ヶ月が経った頃。マリーザは、突然許婚からの訪問を受けた。マリーザには10歳の頃に、婚約を取り交わした相手がいる。それもあちらからお願いされて出来たご縁だ。
マリーザの許婚は、ニコラス・セレビリダーデ侯爵子息。この国の宰相の次男で、彼には優秀な兄がいる。宰相の跡は彼の兄が継ぎ、彼はマリーザと結婚して、このミラジェン子爵に婿入りすることが決まっていた。
彼は藍色の髪に、スカイブルーの瞳を持つ、端整な顔立ちで眼鏡をしていた。知的な雰囲気を滲ませる彼は、マリーザより1つ年上の17歳。サンドリーノ殿下と同級生。性格は寡黙で馬鹿が付くほど超真面目だ。
マリーザ達は、許婚になったのだから、少しでもお互いを理解する為にと、双方の両親に勧められて月一回会う日を決めていたが、彼から行動を起こすことはなく、いつもマリーザからお窺いを立てていた。
彼はマリーザの前では常に無口だった。その上、マリーザをエスコートする気遣いもなかった。これまで彼のマリーザへの素っ気なさは、女性慣れしてないから? と、思っていたが、今日の彼の訪問を受けてそうではなかった事を知った。
彼には同伴者がいた。その相手を見事にエスコートしている。しかもマリーザに一度も見せたことがない満面の笑みまで浮かべて。まるで別人のようだった。
そこで気付かされた。もしかしたら自分達の婚約を、彼は良く思ってなかったのではないかと。その為にマリーザから断られようとして、今まで彼は、不機嫌な様子も隠さずに、マリーザに接してきたのかも知れなかった。
しかし、これはない。いくら婚約相手が気に喰わないとしても、その許婚の屋敷に懇意な相手を連れてくるなんて常識を疑う。しかもその相手が悪すぎた。
「いらっしゃいませ。ニコラスさま。今日はどのようなご要件で? そちらのメローネ嬢と何か御用でしょうか?」
彼はピンク頭の娘を、腕に張り付かせてやって来た。その相手は言わずと知れた、マリーザの天敵メローネだ。マリーザは、彼らを通した応接間で、顔が引き攣りそうになりながら、作り笑顔で出迎える。ニコラスは不機嫌そうに言った。
「おまえとは許婚の仲だ。ゆくゆくこの家には私が婿入りする予定なのだ。一々、お窺いを立てる必要があるか?」
彼は傲慢だった。いずれ自分はこの家の当主となる。そのような気遣いが必要かと問われた。寡黙な許婚は、しばらく会わないうちに嫌な奴に成り下がっていた。ピンク頭と姿を見せた時点で、マリーザの許婚を思う、なけなしの情のようなものまで消え失せた。
マリーザも両親も、この婚約を快くは思っていなかった。でも相手は我が家よりも高位貴族。この婚約を勧めてきたのが、我が家のお得意先の王妃さまだったことと、彼が宰相の息子であり、王妃さまの甥であることから、断り切れなかったのだ。
「まあ、いい。今日はおまえに知らせがあってきた」
「はい。何でしょう? まずはお座りになって」
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