第6話・彼女は嫌われていることに気がついていない
「メローネは、あなたを幼馴染みだと言うけど、そんなに仲良くないんでしょう?」
「勿論よ。出来れば関わりたくないけど、あの子、人に取り入るのが上手いのよ。再会した翌日に、サロモネ男爵が我が家を訪ねてきてね。男爵からお願いされてしまったの」
「なんて?」
「メローネは、平民からいきなり貴族の令嬢になって戸惑うことも多い。あなたは領地にいた時に親しくしてくれていたと義娘(むすめ)から聞いている。どうか良き友達になってくれないだろうか? だって」
「人の良いマリーちゃんは、断れなかったのね?」
「マリーちゃんは止してよ。領地にいたときのことを思い出すと、お断りしたかったけど、義理の娘の為に頭を下げてきた男爵さまを見ていたら、嫌ですとは言えなくなっちゃった」
「仕方ないか」
「メローネは、そんな男爵の心も知らずに翌日には、『マリーちゃん』って教室に押しかけてきて、『幼馴染みだもんね』と、浮かれきっていたわ」
勝手に幼馴染みとして認定されたのよ。と、マリーザはため息をついた。シルヴィオは言った。
「このことはジオには内緒にしていた方がいいわね。こんな話を聞いて不快になって発作を起こしたら大変」
「そうね。ジオには、メローネのことは禁句だわね」
ジオとはジオヴァナの愛称だ。ジオヴァナは、発作持ちなのだ。精神的に負荷がかかると発作が出やすい。彼女はその症状を気にして、大勢の人が集まる場には行きたがらなかった。その為、学園やパーティーなどという大がかりの場では、双子の兄であるシルヴィオが彼女に成り代わっていた。
ジオヴァナはそれでも初めのうちは、数時間でも学園に通えていた。ところがメローネとの出会いが衝撃だったようだ。いきなり「悪役令嬢」と、指を差されて繊細な心が揺すぶられたのか、発作を起こすようになってしまった。
その後、彼女に成り代わったシルヴィオから「お育ちが知れますこと。お家の方には人を指さしてはいけないと教わりませんでしたの?」と、手痛い洗礼を受け、メローネはそれから指を差すことはなくなったのだけど、ジオヴァナのことを、良く知りもしないメローネが、「悪役令嬢」と、決めつけ指摘したことをマリーザは許せなかった。
その一件は黙っていられずに、両親にも話したし、サロモネ男爵にも言いつけた。そのことで男爵は慌てて、エスメラルダ公爵家に謝罪を入れたようだった。
それなのにメロ-ネは悪びれることもなく、反省もしなかった。彼女はマリーザに嫌われているとは思いもしないようなのだ。
「頭の中身がお目出度い子なのよ」
「あなたも厄介な人に目を付けられたものね」
ため息をつけば、ジオヴァナの口調で言うシルヴィオから同情の目線が返って来た。
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