第5話・メローネの母親はサロモネ男爵の愛人だったらしい


「メローネとは、いつからの知り合い?」

「領地にいた時からの付き合いになるかな? 私は幼い頃、祖父母の家に預けられていて、領地の学校に通っていた時期があったから」

「領地の学校? マリーザなら王都に住まいを持つ貴族令嬢だから、この学園の初等科に通うか、家庭教師をつけて勉強することも可能なのに?」


 王都に住まいを持つ貴族子女達は大概、このピエラ学園に通うか、初等教育くらいなら屋敷に教師を招いて勉強をしていた。マリーザは貴族階級で言えば、下から数えた方が早い子爵家の娘なのだけど、実家のミラジェン子爵家は、各国に支店を持つディジー商会で知られる大富豪だ。


 その令嬢であるマリーザが領地の学校に通っていたと聞き、シルヴィオは珍しく思ったようだ。


 領地の学校は、特権階級者の寄付金で成り立っている。そこに通うのは、主に孤児院出身者や平民達だ。生活にも困窮してなさそうなマリーザが、寄付金で成り立つ領地の学校へ通っていたと聞き、不思議そうな顔をしていた。


「前に言ったことあったと思うけど、私は幼い頃、両親が仕事に忙しくて各国を飛び回っていて、祖父母の屋敷に預けられていたの。勉強は勿論、家庭教師に見てもらっていたけど、お祖父さま達のお屋敷では皆、大人ばかりだったし、私には友達がいなくてね、お祖父さま達は、同世代の友達もいた方が良いだろうと、近くの学校に一時、私を通わせることにしたのよ」


 マリーザの実家であるミラジェン子爵家は、曾祖父が貴族の跡取り娘を妻にして、大商人から貴族へと成り上がったと言われる家系だ。その為、他の貴族のように気位はさほど高くもなく、どちらかと言えば庶民感覚に近かった。

 その為、マリーザは屋敷の使用人達とも気さくに話していたし、領地の子らと馴染む事に抵抗はなかった。


「そうだったの。そこでメローネに出会ったの?」

「そうよ。メローネは母子家庭で、その頃は酒場で働く母親と二人で暮らしていたの。彼女は当時から見た目は可愛くて、男の子達に囲まれていたわね。夢見がちで、よく空想話を語っていたわ。自分の祖母は身分違いの恋に落ちて、泣く泣く相手の貴族の子息とは別れさせられた。その時に母親を身籠もっていて、女手一つで母を育て上げたと。だから自分にも貴族の血が流れているとか言っていたわねぇ」

「当時から彼女に騙される男の子が多かったってことね? 女の子には全然好かれてなかったでしょう?」

「どうして分かったの?」

「今までの彼女の行動を見ていたら大体、予想付くわ」

「さすがね」


 シルヴィオの慧眼には恐れ入る。マリーザがみな言わなくても通じてしまうようだ。


「私はメローネに異様なものを感じて、距離を取っていたのだけど、ある日、彼女が何を思ったのか、マリーちゃん、どうしてあたしを助けてくれないの? それでもあたしのお助けキャラなの? って、言い出した時には、あの子の頭の中身を疑ったわ。特に親しくもしてなかったのに」


 その事を思い出して憤慨していると、シルヴィオは考えながら言った。


「その彼女は、どうしてこの学園に?」

「不思議でしょう? 私もね、驚いたの。やっと彼女と離れられたと喜んでいたら、まさか再会するとは思わなかった。彼女の母親がサロモネ男爵に見初められて、養女になったんですって」


「ああ。あの平民の娘が男爵に引き取られて養女になったと言う話は、彼女の事だったのね」

「それは有名な話なの?」

「当時、社交界では噂にはなっていたそうよ。男爵さまは奥さまが亡くなってその喪が明けないうちに、愛人を後妻に迎えたと言うことで、方々から注目を集めていたみたいね」

「愛人……」


 言われてみれば、彼女の母親は酒場に勤めていたのは一時のことで、平民にしては小綺麗な格好をしていた。その頃から男爵の援助を受けていたと言うことだろう。

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