抱かれたい女
@zhou14
抱かれたい女・一話完結
新宿アルタの裏あたり、雑居ビルの5階にそのクリニックはある。
大きな看板を出している訳ではないが、さして広くもないクリニックのロビーは、いつでも若い女の子であふれている。
ここは性病クリニック。歌舞伎町あたりの風俗店が契約して、女の子たち定期的に性病検査を受けさせているのだ、勿論、女の子だけではない、おばさん…… 今風にいうなら熟女までいるが、どことなく水商売の雰囲気を漂わせている。
男も少しはいる、大抵は風俗店のマネージャーだったり、AV男優だったり、もしかしたら浮気をして性病が心配な夫なんかもいるかもしれない。
そういう私もある種同業で、アダルトビデオの監督をしている。
監督がなぜ、性病検査を受けるかというと、撮影には色々な段取りがあり、どうしょうもなく自分のチンコをカメラ前にさらけ出す必要に迫まられる事もあるのだ。
例えば、自分のキャスティングした素人に近い男優が、いきなりカメラの前に引っ張り出され、照明を当てられ、緊張のあまり勃起しない・・・そんな事もよくある、エロよりも羞恥心が勝るのだ、そんな場合、芝居の部分だけ男優に任せ、カット割を考え、挿入している部分、発射の瞬間だけをアップで吹き替え処理する、そんな最悪の場合をAV監督は考えない訳にはいかない、少ない製作費、撮影時間で撮るには、待ち時間など存在しないのだ。
したがって自分の身は自分で守るしかない、という訳で、ひと月に1回は、このクリニックで検査を受けるようにしている。
検査は比較的簡単だ、採尿、採血があるだけ、それだけで、エイズ、B型肝炎、クラミジア、梅毒、淋病、カンジダ、トリコモナス、など、基本的な性病を検査してもらう事が出来る。
検査結果は、急がなければ5日ほどで出る、インターネットで確認も出来るが、検査結果を印字した証明書が大切だ、この検査結果を女優さんに見せる事で、病気ではない証明になる。
検査結果は郵送してもらう事も出来るが、クリニックに出向いて受け取る事も、もちろん可能。
私はクリニックに行き受け取る事にしている、何かとその方がイイ、再検査が必要なほど深刻な場合には電話がある、受け取る日時までに連絡が無い場合は何の問題も無いキレイな体であるか、多少の薬で治る軽度の性病だ。
クリニックに行くのは、会社を抜け出すいい口実であり、気分転換になる、幸いにも、まだ性病にかかった事はない。
その日も、午後遅い時間、仕事も一段落した所で、検査結果を受け取りに出かけた。
クリニックのロビーはいつものように若い女の子と数人の男で埋まっていた。
私は検査結果を受け取るだけなので、受付に行き、診察券と、検査結果の引き換えの券を差し出す。
この時点で何も言われない場合は、まったくの白という事で、薬さえ飲む必要もなく、性病の影も形もないと言うことだ。
予想どおりではあるが、それでもやっぱりうれしい、受付の女性から、検査結果の、なぜか目立つ黄色い封筒を受け取り、晴れやかな感じでクリニックを後にする。
ビルを出る時、黄色い検査結果の封筒をに視線を送る女の子がいた、ミニスカートにパステルカラーのサマーセーター、まあ清楚なお嬢さんと言えなくもない。とても普通の女の子だ。
もっとも、何が普通で、普通じゃないのか、イマイチ分からない、キャバ嬢とか水商売は比較的分かりやすいのだが、AV、ヘルス系の女の子は、とても普通で、女子大生、OL、若奥様と姿を変え、本当に普通に生活している。
そんな普通の子が普通に声をかけてきた、「検査、白でしたか?」
「まあね」、黄色い封筒を誇らしげに見せる、見た目普通の子でもこの封筒を知ってるという事は、同業者だ。
「男優さん?」顔を覗き込みながら聞く、男優には見えなかったのだろう、やはりAV男優には、同業者にしか分からない、ニオイがある。
男優という言葉を出してくるということは、彼女自身、AV関係の子に間違えはない、風俗の子が男優という言葉を出してくるとは思えない。
「君は、AVの子」
「そう! 分かる?」、
つまらない事で目を輝かせる、そこで身分を明かす、「AV監督やってます」
すると急に親しげに話し始めた。
「よかった、調度イイ人が見つかった」
「調度イイ人って?」
女の子は私の腕をとり、耳元に唇を寄せて、囁くように話す、
「私と援交してくれませんか? 財布無くしちゃって、困ってて、だけど、だけど。誰でもイイ訳じゃないの、やっぱ病気の無い人じゃないと」
そう言って、黄色い封筒をトントンと叩く。
「援交か・・・」可愛い子だし、そういう事もキライじゃないけど、AV監督がAV嬢を援助するというのもなんだかな話だ。
「お願いします、安くていいの」
腕を話すと、ペコリと頭を下げる
断られるギリギリのラインをさぐる、それは出しても良いギリギリラインでもある。
「悪いけど、2万ぐらいしか無いんだ」
「2万!…… 全然OKです」
話が決まってしまった。
嬉しさ半分、後悔半分、社員AV監督にとって2万円は大きな数字だ。
ちょっと落ち着こう・・・
「ちょっとさ、ラーメン食おうと思ってたんだよね」
「ラーメン大好き、付き合います」
「付き合うって、金持って無いんだろ」
「ごちそうしてください」
こういう遠慮のなさはキライじゃない
「いいよ、行こう」
よく行く豚骨ラーメン屋に入る。
名前は洋子と言った、本当でもウソでもイイ、名前が無いと呼びづらい。
洋子は大学生で、あまり付き合いの無いプロダクションに半年前から所属し、10本ぐらいのAVにエキストラみたいに出たそうだ、エキストラのように出たAVとは「運動会」「水泳大会」「文化祭」のように大勢の女の子が出るもので、我々の業界では企画物と呼ばれている、洋子もそんな企画女優の一人というわけだ。
おそらく10年ちょっと前なら、洋子ぐらいの容姿の子はもう少し高いギャラで、仕事が出来たはずだが、残念な事にAV業界にも不況の波は押し寄せていて、かなり可愛いい子でも、仕事にあぶれる事がある、業界全体が冷え込んで、予算がない。一方、女の子たちも、今や、脛をかじる親の脛もやせ細り、おこずかい増額など、見込めない、そこへ安易にAV嬢をめざす。
しかし、目指した所で、そんなに仕事はない。
洋子もそんな一人に違いない。
洋子に1万円ほど渡して帰ってもいいのだが、残念なことに、近頃の若者と違い、年はとっても、かなりの肉食系だ、ラーメンを食べ終わる頃には覚悟も決まり、ホテル街を目指した。
かつてコマ劇場があった裏あたり、大久保に続く道にラブホテル街がある。
洋子がラブホテルを指定するようならちょっとヤバイと思っていたが、洋子は黙ってついてくる、ホテルはどこでも構わないという。
平日16時~24時までサービスタイム 5800円、いかにも、というラブホテルに入った。
比較的広い部屋にダブルベッドとソファ、50インチのテレビにカラオケセット、ガラス張りでジャグジー付きの広い風呂。
洋子に先に風呂に入れというと一緒に入ろうという、さすがにそれは照れるものがあったが、まあ成り行きを楽しむという事もある。
で、一緒にお風呂に入った。
「時間ある?、髪、洗っていい?」
いいよと答える、洋子はシャワーを全開にしてシャンプーを始めた、私はジャグジーにつかりながらその後姿を見つめていた。
やがて、髪も体も洗い、メイクもすっかり落ちてスッピンになった洋子がジャグジーに入って来た、胸も大きく大人の体だが、あどけない顔がすごく可愛いい、高校生に見えなくもない、年齢を確認しなかった事を後悔した、18歳以下だった場合、一緒にホテルに入っただけでアウトだ。
今更だが聞いてみる、
「本当に大学生?」
フフっと怪しげに笑う、
「大丈夫、後で学生証見せてあげる」
洋子が僕のアソコを握ってきた、ウソでも本当でも、もう手遅れだ。
性病検査に合格していたので、生でもイイという洋子の言葉に甘えて、結局、風呂でもベッドでも戦った、ゴムを付ける手間が無いだけで、SEXはすごく自由になる。
結局朝までいる事になり、ちょっと大人げないほどはしゃいでしまった。
通勤客が急ぎ足で行き交う頃、洋子と僕はスタバでコーヒーを飲み、ドーナッツを食べた。ちょっとした恋人気分だったが、私も出勤しない訳にはいかない、ここで別れて会社に向う。
会社に一歩入れば、やる事が山積みで、企画書を書いたり、編集に夢中になっているうち、夜には洋子の事は忘れていた、そして翌日には思い出す手掛かりさえ無くなっていた。
数日後、企画会議がり、ロケに出ていたスタッフや、編集室に閉じこもっていた者たちが久々に会議室に集まり、プリントアウトした企画書を前に雑談している。
ウチの会社の場合、総製作費が700万だ、この予算で毎月10本の作品を作る、私の場合150万ほどの予算をもらい2本作る、75万で2本作れと言われると、キビシイ感じだが、2本同時に撮る事でスタッフ・キャストの人件費、スタジオ料金を節約し、100万ほどのちゃんとした物と、50万のお手軽物の2本を作る事が可能なのだ。
私の斜め前に座る若手監督の吉岡と、ADの宮崎が話しているのがなんとなく耳に入ってきた。
どうやら、ADの宮崎が性病検査に行ってきたようなのだが……
「いましたよ、まだ、洋子、可哀想だけど」
「まだいた……」
「もうさ、噂も広まっちゃって、誰もあんな女抱かないだろうに」
急に、あの豚骨ラーメンを食べた洋子の姿が脳裏をよぎった。
「なあ」
思わず、口をはさむ。
「ごめん、今の話」
宮崎が振り向く。
「知ってますよね、洋子、エイズの」
「え」思わず言葉を失う、
「知らないんすか? 噂ですけどね、洋子って女、けっこう可愛いんですけど、初めて出たAVでエイズうつされちゃって、今ではその復讐で、性病検査でシロだった男優なんかを狙ってナマで誰とでも寝るって……」
宮崎は何か話していたがもう耳には入ってこなかった。
いや、ちゃんと一言、耳に入っていた。
「まさか先輩、洋子とヤちゃったなんて事無いですよね」
終
抱かれたい女 @zhou14
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