第54話 新しい事業
ミルカが言った。
ほとんど叫んでいた。
「クサリさん、まさかこれっきりってことはありませんよね!?」
あまりに足りないものの多すぎる言葉ではあるわけだが。
それでも、何を訴えたいのかは分かる。
なにしろ、彼女の背後からはメイドさん。いや『
それに応えて、俺は言った。
ミルカでもなく、メイドさんたちでもなく、シンダリに。
「聞かせてもらえるかな――さっき言ってた『ひとつ考えてる事業』っていう奴について」
俺の考え通りなら、これでミルカたちの訴えは満たせるはずだった。
その通りだった。
シンダリが言った。
「今夜の舞台ですが、これで終わらせるのは余りに惜しい……その点については、同意を頂けることと思います。私の考える『事業』とは、いかにそれを実現させるかです。現在、この街には劇場が3つある。その1つに、私は伝手を持っています。週に一度、ここで『
人差し指を立て、みんなを見回して、シンダリは続けた。
「もちろん、これでは事業と呼べない。大きな会場で、自分の息のかかった人間に公演をうたせる。それで、ある程度の儲けを出すことは可能でしょう。しかし、それでは事業と呼べない。あまりに広がりが無い。言い方を変えると、それで儲けられる人間の数なんて、たかがしれてる。単なる、足し算の商売に過ぎません。私が手がけるなら掛け算だ。そしてそれこそが、私の考える事業なのですよ」
ミルカを見て、にっこりとシンダリは微笑む。
「今夜の舞台を観て気付いたことですが、観客の中には、女性も多かった。若い娘が歌い踊るのを観て、同じ女性が声を上げ跳ね踊っていた――意外なことです。私たち男性の感性からしてみれば、全く理解しがたい程、意外なことです」
まったくだ、と苦笑するルゴシに、再びシンダリが微笑む。
「しかし、理解し難いとは言っても、あくまで感性においての話に過ぎません。考えてみれば、それなりに納得のいく考えを導き出すことが出来ました。私たち男性が若い女性を見るとき、もっとはっきりと言えば、女性に金を使おうとするとき、判断の基準とするのは、抱きたいと思うかどうかです。もちろん、今夜の観客の男性たちもそうだったでしょう。では、同じく舞台の『
へえ――イゼルダが声を上げたが、今度は微笑まず、シンダリはそちらを見ようともしなかった。
「舞台で歌舞し、観客の熱狂を浴びる――『もし自分があそこにいたら?』。そんな想いが、観客の女性たちにはあったに違いありません。そしてそんな想いを抱かし得たのは、『
今夜いなかった種類の女性たち――「少女たち」
「その通りです、クサリさん。この事業の対象とするのは、少女たちです。『
一気に言い切られて、俺は言葉を失った。あえて表現するなら、それは敗北感に近かった。ドルオタのキモい中年男であった前世の俺について、この上なく正確に、その性根を言い当てられてしまったような、そんな気持ちにさせられてしまっていた。
しかし――
「私の提案も、ほとんど同じです。違うとしたら、劇場に出演するのでなく、自前の劇場を持って毎日公演したらという――」
「ほお。それでしたら、商品を置く売店も常設できますし、自前の劇場であれば『大量の商品を購入した客だけが観ることの出来る特別な公演』等を開くのも容易になりますし、それに――」
――お互いのプランを話して顔をほころばせあうミルカとシンダリを見てたら、だんだん、冷えてくのが感じられた。頭の奥のほうが、すっと熱が引いたように、冷たくなっていた。
気付くと、俺は言ってた。
「常設の劇場と、関連商品の販売――まだまだ、入り口に過ぎませんね。食堂も併設するべきでしょう。給仕は『
イゼルダとルゴシも、俺の声音から何かを感じたらしい――彼らもまた、
「公演は、毎日。昼と夜の二回行います。夜が一軍で昼が二軍。客の人気次第で昼から夜に上がるメンバーもいれば、夜から昼へと落ちるメンバーもいる。そうやってメンバーの間に競争関係を作るわけです。そして競争は、昼と夜だけじゃない。曜日ごとでも行います。全体を3グループに分けて、月曜から土曜の間で持ち回りで公演。その週で最も収益の高かったグループが、日曜日に公演する権利を得る。ああ、疑問に思われるでしょうが、分かってますよ? これだと、メンバーの数がとんでもないことになる。私が想定してるのは50人弱といったところですが、もちろん、これでは食っていけない。我々ではなく、彼女たちが。競争によりメンバーのレベルが上がり、劇場が得る収益は高くなるでしょうが、メンバー一人一人に渡される給金は、人数が多い分、少なくなる。でも、いいんです。給金なんて、雀の涙ほどで構わない。何故なら、メンバーになりたがる女性なんて、いくらでもいるからです。というよりは、メンバーにさせたがる金持ちたちがですが。『
言葉を区切って見ると、既に全員が冷えていた。俺が話したのは、俺が見た景色。俺、いや俺たちドルオタが自分の半分もいかないような年齢の少女たちに浮かれ、憧れ、その果てに辿り着いた景色だった。俺は言った。
「――これが、我々の作ろうとしている地獄です」
幼女剣王KUSARI ~俺が幼女になっちゃった!転生ドルオタの異世界無双!俺、異世界でアイドルになります! 王子ざくり @zuzunov
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幼女剣王KUSARI ~俺が幼女になっちゃった!転生ドルオタの異世界無双!俺、異世界でアイドルになります!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます