第49話 みなもが帰る場所(2)
四月初めなのに初夏の暑さだった。雨は降らず、辺りは
実菜穂と陽向は、準備を終えて静かに息を整え、出て行くタイミングをはかっていた。その間も、乾いた空気が周りを包んで砂漠の舞台のように霞んでいた。舞を待つ多くの人の中には、わずかながら野次をとばす人も出てきた。あまりにも男の野次がうるさいので、秋人が止めに行こうとするのを見て、近くにいた良樹が目配せして代わりに止めに入ろうとした。ところが男は良樹が止める前に黙ってしまった。その一瞬、辺りが静かになったタイミングで実菜穂と陽向は舞を始めた。
良樹は、黙りこくってしまった男を不思議に思いながら、秋人に首を振った。秋人は男が良樹の方ではなく、反対方向に顔を向けているのに気がついた。野次を飛ばした男の横にはポッカリと二人分の空間があった。誰も近づくことのない空間。男の肩を掴んで、ジャージ姿の長身の男子が立っていた。淡いオレンジ色のジャージを着て、男を見ていた。誰にも見えていない男子、
「お主の格好、それはどこのものじゃ」
「知らんのか。陽向と実菜穂殿の学校のものだ」
「そうか。お主が着るとちと笑えるの」
みなもは、実菜穂と陽向の舞を見つめたまま、話した。二人の舞は、以前よりも格段に上達しており、見事に息が合っていた。みなもと火の神は、それを眺めていた。
「思いは伝わっているのか」
火の神はみなもの方を見て声かけると、みなもは目を閉じ、静かに答えた。
「十分に。なあ、教えてくれぬか。儂はここにおっても良いのか」
「実菜穂殿、陽向の思いがその答え。そして、俺もそう願っている」
「そうか・・・・・・。それにしても、話が変わるが、お主がそうヘソを曲げておっては、姉さの妹達が雨を降らすことができずに困っておるではないか」
みなもは、火の神に目をやった。火の神はみなもから目をそらせた。
「ヘソなど曲げてはおらん。ただ、俺はお前を粗末にするものは絶対に許さん。この状況で水の恵みを与えられる神は一柱だけだ。それだけだ」
「なーんで、お主が怒っているのか分からぬが・・・・・・。そうじゃ、儂はもう
「知っておる。
「母さにも姉さにも言われたわ。面倒なんじゃがな、そうは言っておれぬでな」
みなもは、軽くため息混じりで言いいながら、笑った。火の神も苦笑いをしていた。
「実菜穂殿のお前に対する思いと信頼は厚い。お前にとっても神霊同体と成れる唯一の人。巫女をとる気は無いのか」
「のう、その話、今は止めぬか。巫女になるということは、多くの神に関わるということ。それに、強大な神の力を持つということ。儂は簡単には考えられぬ。それに今は二人の思いは厚いということ、これだけで儂には十分じゃ。これほどの思いを受けた礼を儂はまだ伝えておらぬ。お主にも付き合ってもらうぞ」
みなもは、火の神を青い目で見つめた。その瞳に火の神は、少し頬を熱くして何度もうなずいた。
「それにしてもお主の舞台、ちと埃っぽいのう。洗い流すぞ」
みなもと火の神は、実菜穂と陽向の舞が終わった瞬間、光となって消えた。
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