第48話 みなもが帰る場所(1)

 新学期間近の土曜日、実菜穂と陽向は舞の舞台に立つ準備をしていた。祠は基礎土台もしっかり出来ており、綺麗に仕上がって移設された。ただ、今日になってひょんな事が起こった。祠は無事移設されたのであるが、実菜穂と陽向の舞を見るために多くの人が集まってきているのだ。もちろん、舞をすることなど準備を手伝った秋人と良樹しか知らないことであった。噂を広めたのは人なのか、それとも風なのか・・・・・・。


「実菜穂ちゃん、何だかすごいことになったね。雨乞いの舞と勘違いしてるのかな」


 陽向は、髪を一つに束ねる仕草をしながら舞台を見ていた。


「雨乞いの舞はしないのに。出来ないし、するつもりもない」


 実菜穂はそう言いながらキュッと唇をかんだ。埃っぽいく、乾いた空気にさらされて唇が乾いていた。それを見て、陽向は実菜穂の唇にそっと紅をさした。


「この空気にイライラしてたら、みなも帰り辛くなるよ」


 陽向は、にっこりして実菜穂の身なりを整えていた。


「そうだよね。陽向ちゃんが落ち着いていてくれるから、安心できる。ありがとう。でも、本当は、少し怖い」


 実菜穂の肩は少し震えていた。陽向は、震える実菜穂を両手で優しく押さえた。


「怖いよね。みなもが、『帰らないかも』なんて考えると。でも、いま考えるのは、それじゃない」

「うん」

「思いを伝える!」


 二人は、笑ってお互い確かめるように言った。

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