第41話 礼をもって礼に応える(6)
1県越えて、実菜穂はアサナミが祀られている神社がある街に着いた。予約していた宿もすぐに見つかり、チェックインして部屋にたどり着いた。
日はもう暮れていた。3月で日没時間は伸びていたが、6時には暗くなっていた。シャワーで汗を流して、一息ついてから、陽向に電話を入れ、今日あったことを話した。陽向も心配してくれており、熱心に話を聞いてくれた。実際、陽向も同じ体験をしたとのことだった。ただ、陽向自身は、心に火の思いがあるため、そこには触れなかったようである。実菜穂は、忘れずに家にも電話を入れておいた。
(明日、アサナミにお礼を伝える。今日は水波野菜乃女神に会うことができた。望みはある・・・・・・)
実菜穂は、今日の疲れが一気に出てくると、そのままベッドで眠りについてしまった。
夜が更けて、水波野菜乃女神を祀る社にみなもが来た。白き着物に瑠璃色の帯をしていた。みなもの前に水波野菜乃女神が姿を現した。
「あなたは、本当に母のもとに行くのですか」
「はい。今宵は、最後の挨拶に参りました。姉さには、今まで世話になりました」
みなもは、水波野菜乃女神のもとに近寄り、頭を下げていた。
「私の妹よ。あなたがなぜ、母のもとに参ろうとするのかは、分かります。あなたは私であり、私はあなたです。人から神になる者は今までも多くいました。けれども、神から人になった者を私は知りません。母のもとに参ってもそれは叶いません」
水波野菜乃女神は、みなもの肩を抱き、頭を上げさせて言った。
「姉さ、儂は母さに御霊を返すだけじゃ。そして、消えるだけじゃ」
みなもは水波野菜乃女神の手を握り言った。それを聞くと水波乃神は、笑った。
「妹よ。それは叶わないでしょう」
水波野菜乃女神は、みなもの『意外だ!』という顔を見つめて言葉を続けた。
「あなたが、こちらに来るまでに私は二人の人と会いました。一人は日御乃光乃神の社の巫女。そして、もう一人はあなたも知っている人です」
「陽向と実菜穂か・・・・・・」
「そうです。今日、会ったのは、その実菜穂という人です。私に礼を伝えにきました。あなたが今まで川辺の地で尽くしてくれたこと。子供の時から遊んでもらったこと、そして多くのことを教えてくれたこと。そして何より、私に敬意を持っていること。どれもみな礼をもって伝えてきました。ならば、私も礼をもって応えねばなりません」
水波野菜乃女神はそう言うと、みなもを抱き寄せた。
「私は、実菜穂の心全てを見ました。見事に水の心を持った人。あれほどの心の持ち主は、そうはおりません。なぜ、あれほどの心を持っているのかも分かりましたが・・・・・・。ただ、ほんの僅かですが、私に立ち入らせまいと
「・・・・・・」
みなもが言葉に詰まっている様子を、水波乃神は微笑んで見ていた。
「妹よ、実菜穂そして陽向の思いは厚い。たとえ、御霊を母に預けてもあなたは消えないでしょう。そして母も同じことを言うでしょう。その証としてこれをあなたに預けましょう」
水波野菜乃女神はそう言うと、自分の桜の髪飾りをみなもの髪に飾った。
「あなたが、消える決意が変わらぬのなら、その髪飾りを御霊と共に母に渡しなさい。それでもし、消えぬようであれば、再び私のもとに返しに来ることになるでしょう。美しき私の妹よ」
その言葉にみなもの瞳には涙が滲んでいた。水波野菜乃女神は、それをそっと優しく拭った。そして愛おしく抱きしめるとそのまま姿を消した。
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