第34話 消えるみなも(7)
実菜穂は家に帰って、部屋に閉じこもった。どこをどう帰ってきたのか憶えていないが、途中何度も転び、制服は泥だらけになっていた。今になって、手の甲と転んだときの傷が痛みだした。だが、その痛みも自分への憤りに比べれば大したことはないように思えた。母が呼ぶ声がした。お風呂に入るようにと言っているようだ。
実菜穂は湯船に身体を沈めて、そのまま 頭まで沈めていった。息を止めて、殻に閉じこもるように全てを遮断した。
(消えたい・・・・・・・・・・・・・)
陽向の話を思い返していた。苦しくなるのを我慢していたが、こらえきれなくなり、顔をあげた。
「・・・・・・苦しいよね・・・・・・・・」
実菜穂は呟いて泣いた。
そろそろ、布団に入ろうかと考えていたとき、母が部屋に入ってきた。友達が来ているというのだ。なんでも、まじめそうな男の子だとか。
(秋人・・・・・・・・?)
時計を見ると午後9時をまわっていた。遅い時間だった。実菜穂は寝間着姿から急いで上着を着て駆け降りた。玄関に行くと予想通り秋人だった。外は冷えるようで、秋人らしい落ち着いた色合いのグリーンのハーフコートが目を引いた。秋人は実菜穂が学校に置いてきた鞄を届けに来てくれたのだ。
「届けてくれて、ありがとう」
「手、大丈夫なのか?」
実菜穂が鞄を受け取る手には包帯が巻かれており、秋人はそれを見て言った。
「転んじゃって・・・・・・・。大丈夫だよ」
実菜穂は、から元気ながら笑ってみせると、秋人は、周りを気にしながら実菜穂に声を掛けた。
「鞄は口実で、本当は話したいことがあるんだけど。少し時間くれないか?」
「部屋にくる?」
実菜穂が言うと、秋人はさすがにためらった。
「いや、外・・・・・・いいかな?」
そう言うと秋人は玄関を出た。実菜穂は、母に秋人と話をすることを伝えるとついて行った。
「寒くないか?」
「大丈夫」
秋人は歩きながら話し始めた。
「陽向が心配してたよ。実菜穂には、少しきつかったと。鞄を届けるの頼んだの陽向なんだ。実菜穂のこと凄く気にしてた」
「ううん。陽向ちゃんには、本当に感謝してる。私の知らないところで、いろいろ心配してくれてて、助けてくれてるのに。私、何にも知らないで、気付かないで。そんな自分に腹が立って。それでまた余計に心配かけて・・・・・・」
「そうか・・・・・・それを聞いたら陽向も安心するよ」
秋人はそう言いながら小さな公園に入っていった。みなもと一緒に入った公園だった。あのときは桜が咲いていたが、今は枯れ葉が舞い散って、落葉樹が冬支度をしていた。
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