第31話 消えるみなも(4)

 部屋にはシーンと静かな空気が張り詰めていた。


「今日は、みなも、ゆっくりできるの?」

「そうじゃな。今日来たのは、以前にお主が話を聞きたいと申しておったこと。それを思い出したのでな、ここに寄った」 


 実菜穂は、タイミングを得たとばかりに頷いた。


「みなも、たくさん話を聞きたいよ。教えて欲しいこともある」

「なんじゃ」


 みなもは、笑っていた。


「みなも、最近は川辺の祠には帰ってないの」


 実菜穂は、聞きたいことを選んだつもりが、ストレートに聞いてしまった。


「帰っとらんな。あそこはもうじき無くなるでな」 


 みなもは戸惑うことなくストレートに返事をした。


「みなも、祠が無くなるの知ってたの?」

「ああ、知っておった。春にお主と会ったときは、そのことで姉さに相談して帰るときじゃった」

「じゃあ、祠が無くなるとみなもはどうなるの?」

「どうもせぬ。宿無しになるくらいかのう」

「じゃあ、みなもは今のようにずっといてくれるの?」

「そうじゃな、それも良いと思っておったし、あちこち見て回るのも楽しいものだと考えとった。じゃが、やはり最後は母さのもとに戻るかのう。出戻りってやつじゃな」


 みなもは笑って答えた。実菜穂は、みなもの言葉に神話のアサナミを思い浮かべた。答えを探りたいがそれが怖かった。しかし、やはり聞かずにはいられなかった。


「みなも、母さのところってアサナミのもとってことだよね。そうなれば、みなもはどうなるの?」


 実菜穂の問いにみなもは静かな表情で、実菜穂を見つめた。


「儂は、御霊を母さに返す」


 実菜穂は、言葉に詰まった。それから先の言葉が出てこなかった。それを知ってか、みなもが言う。


「お主が聞きたいことは分かる。神の御霊はどうなるのかであろう。実菜穂、人は二度死ぬと話したが、神はな・・・・・・先に申せば、死なぬ。神には本来の神の世界がある。いまのこの場は人の世界じゃ。人だけでなく多くのものが生きる世界じゃ。神の世界と同じくこの世界を作ったのが太古の神々じゃ。そして、この世界を見守るために多くの神々が生まれた。儂もその一つじゃ」


 みなもは、実菜穂を見てゆっくり頷いた。実菜穂はみなもの顔を見つめていた。


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