第30話 消えるみなも(3)

 実菜穂は、一人机に向かいながら、参考書と格闘していた。少し、筆を進めては、しばらく考え込む。何度もこんなことを繰り返していた。もちろん、考える内容は、問題の解答ではなく、みなものことだった。


(だめだ、とても集中できない。これなら、勉強しない方がましだ。解らぬことは、やはり聞くしかない)


 実菜穂はノートに問題の解答ではなく、みなもの状況を整理していった。


 ・少なくとも再会したこの4月には、みなもは何かをするためにこの街に来てい           

  た。 

 ・この4月には祠が取り壊される計画があった可能性がある。

 ・姉さによく会いに行くようにしている。

 ・「間がある」とは、いつまでのことか?

 ・「いくところ」とはどこか?

 ・なぜ、秋人はみなもが見えていたのか?

 ・自分はなぜみなもが見えるのか。


 実菜穂は、分からないことを眺めていると、繋がりがあるものがないかと考えた。


(火の神は事情を知っているのではないか。なら、陽向ちゃんは・・・・・・・そう言えば、舞の練習の時に私がみなもが見える理由を考えていた。何か知っているのだろうか・・・・・・やっぱり、わからん・・・・・・)


 いくら推理、検討をしても解答にはたどり着かなかった。ただ、自分が知らないことがあり、みなもにとって大きなことが動いているのだということは理解できた。 

 

 実菜穂は、頭を冷やすためにキッチンに行き、コーヒーを入れた。普段は紅茶を飲むのだが、苦みで気分を紛らわそうとコーヒーにした。部屋に戻ると、みなもが着物姿で立っていた。実菜穂は、あわててドアを閉めて、みなもに近寄ると、みなもの表情が少し堅くなっているのに気付いた。


「来てくれたんだ。お菓子食べる?お茶入れてくるね」

 

 実菜穂は、みなもの緊張している感じが気になった。


「かまわぬぞ。ありがとう」


 みなもは部屋を出ようとする実菜穂を呼び止めて、その場に正座をした。実菜穂もみなもと向かい合って座った。


「みなも、今日は来てくれないのかと思ったよ。でも、来てくれて嬉しいな」 


 実菜穂は、みなもの前に座ると、湯気の立つマグカップをいじった。


「今日は、急にいなくなるから驚いたちゃった。陽向ちゃんも心配していたよ」

「そうじゃな。それは、心配かけたの。儂は用事を思い出して、姉さのところに行っておった。今はその帰りじゃ」


 みなもは、少し緊張気味の表情をゆるめると言葉を続けた。


「お主もそろそろ、受験があるのであろう。そう、邪魔立てもできぬのでな。これからは、遊びに来るのも控えようと考えとる」

「邪魔立てなんて。みなもならいつ来てくれても私、嬉しいし。息抜きにもなるし」


 実菜穂は、みなもの言葉に言いようもない不安を感じた。


「そうもいかぬ。実菜穂よ、己が今すべきことを見誤るでないぞ。人にはその時、その時、己が全力を尽くしてやるべきことがある。それを見失い、力を出し切らねば必ず悔いとなる。その悔いは、常につきまとうことになるぞ。そうなれば、また同じことを繰り返す。己の未来は悔いという魔物に引きずり込まれることになる。よいか、それを断ち切る方法は一つ、今に全力をかけることじゃ。今を生きねば未来はないぞ」


 いつものみなもらしい口調に、実菜穂は頷いた。

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