第27話 礼をもって礼を伝える(9)
数日後、陽向が当番だったので実菜穂も一緒に放課後の図書館にいた。実菜穂は図書館に来る生徒が多いことに気がついた。
「陽向ちゃん、今日は図書館にいる人がけっこう多いよね。受験モードだからかな?」
「本当だね。でも、下級生も多いよ。こんなの珍しいね」
陽向は、周りを見渡していると、なにやらただならぬ雰囲気を感じた。
「実菜穂ちゃん、なにか・・・・・・私たち、注目されてない?」
陽向が実菜穂の方を見て、小声で話した。実菜穂もそう言われて、周りを見てみると、たしかにこちらをチラチラ見ている生徒が目についた。そのうち、秋人の姿を入り口に見つけたので思わず声をかけた。
「秋人、どうしたの?受験勉強かね」
注目は一斉に秋人の方に移る。秋人は、シィーと人差し指を口に当てると、素早くカウンターの中に潜り込んできた。
夏頃から実菜穂は陽向の影響もあって、金光さんから秋人と名で呼ぶようになっていた。秋人も自然に名前で呼ぶようになり、意識はしないがお互い些細なことや小さいときの思い出話しをしたりすることが多くなっていた。
「珍しいね。図書館なんて、今まで見たことなかったけど」
実菜穂がしゃがみ込んでいる秋人に言うと、陽向も頷いた。秋人は、返却された本を拾い上げて、口を隠して二人に話した。
「二人ともその調子じゃまだ知らないようだけど、けっこうな有名人になってるぞ。俺もさっき良樹に教えられたから・・・・・・」
秋人は話している最中に図書館に飛び込んでくる良樹に気づき手を挙げた。良樹は秋人を見つけるとカウンターを飛び越えて入ってきた。
「こら!机を飛び越えるな」
実菜穂が思わず声をあげた。再び注目が集まる。
「ああ。悪かった。ごめん」
良樹は陽向の目もあり、本当に申し訳なさそうに言った。間を取って秋人が話を続けた。
「俺も、良樹も祭りの二人の舞を見に行ったよ」
「ああ、うん。来てたね。気付いてたよ」
実菜穂と陽向は顔を見合わせて言った。
「ほんとうに、二人とも凄いと思った。息が合っていたというか、特に後半なんて・・・・・・」
「そうなんだよ。あの前半とのギャップがもう、神憑っていて」
秋人の会話に良樹も乗っかかってきた。実菜穂と陽向は再び顔を見合わせて苦笑いしていた。
(前半とのギャップって・・・・・・そりゃあ、悪かったわね)
実菜穂は、頭の中で良樹にべーっと舌を出していた。
「それでなんだけど。良樹、あれ」
秋人はそう言うと良樹に目配せした。良樹は、スマホを取り出して二人に見せた。
「ほら、これだよ。あのときの舞を誰かが動画にupしてるんだよ」
二人は動画を見て、驚いた。実際、自分たちの舞を見るのは初めてであったが、舞っている者からすれば、一連しての出来事だったし、全力で舞っていることに変わりはなかった。しかし、動画で見れば、良樹が言うように神霊同体となった後の舞はスピードも動きも志向も全てが別物であった。いや、次元そのものが違っていた。実菜穂も陽向もその舞に見とれてしまっていた。確かにこの動きだけを見れば、良樹の言葉も頷けた。
「動画もだけど、再生回数見てみろよ」
良樹は二人に言った。
「えっ、もう9千越えて、1万に迫ってる!」
実菜穂は、陽向に指さして言った。
「すげえだろ、3日でこれだとまだまだ伸びるぞ。もう、学校でも話持ちきりだし」
良樹の言葉に実菜穂と陽向はもう笑うしかできなかった。
「しばらくは、大人しくしとこうか。すぐに話題も変わるでしょう」
陽向は、落ち着いた口調で良樹の興奮をなだめるよう言った。
「実菜穂はまだ大丈夫かもしれないけど、陽向のとこはひょっとしたら暫くは賑わうかもな」
秋人はかつての自分と重ねて心配して言った。
「それはそれで良いかも」
陽向は笑って答えた。
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