第26話 礼をもって礼を伝える(8)

 翌日、実菜穂と陽向は図書館で昨日の話をしていた。実菜穂は、腰を押さえながらグッタリしていた。


「もう、全身筋肉痛だよ。陽向ちゃん何ともないの?」

「じつは、足がけっこう辛いよ」


 陽向は相変わらずの笑顔で、スカートの上から足をさすっていた。


「でも、陽向ちゃん本当に凄かったね。みなもが感心してたよ。火の神の姿をあれほど現せる人を他には知らないって、言ってた。あの光には本当に跪きたくなったよ。まさに火と光の女神だった」


 実菜穂は陽向の瞳をマジマジとのぞき込むと、陽向は恥ずかしげにうつむいた。普段の陽向からはあまり見ることがない仕草だった。


「自分の姿は、殆ど分からないけど、実菜穂ちゃんのはよく見えていたよ。みなものあれが本当の姿なのかなって、それが実菜穂ちゃんなの。実菜穂ちゃん自身が麗しき女神だった。正直、私自身が抱きしめたくなるような、それでいて抱きしめられたく思える女神。育みと安らぎが満ちる神、それが水の神様なんだね」


 陽向はそう言うと、今度は実菜穂の瞳をのぞき込んだ。陽向の瞳と見つめ合う瞬間、胸ドキドキして何とも不思議な気持ちが込み上げてきた。


陽向の優しい瞳が、近づいてくる。陽向の包みこもうとする雰囲気に実菜穂は、抗えずに瞳を見つめていた。


 唇が触れ合う寸前まできているが、実菜穂はそれを拒む気は起らなかった。ただ、恥ずかしさだけがこみ上げてきた。


 照れ隠しで先に口が動いた。


「そうだ、あのときの舞で気がついたことがあるんだけど。火の神って、絶対、みなものこと好きだよね」


 実菜穂の言葉に、ハタと陽向はいつもの表情になった。


「あっ、やっぱり。分かる?そうなのよ。ずっと、気持ちは高揚した状態だったよ」

「わかる、わかる。気付いてないのはみなもだけだよね」


 実菜穂と陽向は口をそろえて言って笑った。


「端から見てたらよう分かるぞ!」

 

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