第23話 礼をもって礼を伝える(5)

 実菜穂と陽向は舞を終え、二人はその場で深く礼をした。周りの人の拍手が二人の耳に入って、ようやく安堵の顔で互いを見合っていた。そのとき、二人は不意に奇妙な空気を感じた。一つは、強烈な躍動と希望を含めた熱く燃えるような空気、もう一つは静粛な清楚と包容を含めた涼やかな空気。二人は確かに感じていた。この二つ空気が自分の周りを包み込んでいたかと思うと二手に分かれた。実菜穂は、その一方が自分に入り込もうとしていることが分かった。


(なんなの?この空気。私の中に入ろうとしているの?この感じはあれと同じだ、泳いでいるとき水に抱かれている感じ。でも、息苦しくはない・・・・・・身体が、頭が、凄く満たされていくような・・・・・・)


 実菜穂は、涼やかな空気が自分の中に入ってくるのを感じていた。しかし、それはけして不快なものではなく、むしろ安堵、高揚を感じるものであった。乾ききっていた身体は満たされていく。頭も、心も、まるで恵みの雨が地面に染み込むように満たされていくのだ。そして、ついに身体の隅々までその癒しは満たされていった。


(もしかして、みなも・・・・・・みなもなの?)


 実菜穂は、身体で感じる雰囲気から直感的に問いかけた。


『儂じゃ、実菜穂』

「どうしたの?これって、どうなっているの?」


 実菜穂は心の中でみなもに問いかける。みなもが即座に答えてくる。


『お主の思い厚いのう。しかと受け取ったでな。儂には、もったいないの。ありがとう』

「届いてくれたんだ・・・・・・本当に」

『ああ、しっかりと。ただ、ちぃーと不味いのう。これは日御乃光乃神の舞台じゃ。そこに儂を入れてはのう』

「あっ、神様怒ってる・・・・・・?」

『いや。あやつは、そのようなことで気を悪くするほど器量が狭い神ではない。人の心には敏感な神でな。むしろ、曇り一つない思いに感心して喜んでおる。思いとはそういうものじゃ。まあ、ちと困ったのは儂じゃがな』


 みなもはクスリと笑った感じで答えた。


「えっ?」

『それよりも、実菜穂、もそっと肩の力を抜いてくれぬかのう。あっちはもう準備できたとばかりこちらを見とるでな。ほれ、陽向を見てみ』


 みなもの言葉が頭にこだました。

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