第22話 礼をもって礼を伝える(4)

 気持ちいい青空が広がる日曜日、舞を捧げる舞台は整っていた。実菜穂は、予想していたよりも多くの人が集まってるのに驚いた。


「陽向ちゃん、人多いよ。こんなに集まるなんて想像してなかったよ。お輿担ぐ子供たちくらいが集まるのかと思ってた」


 舞台周りに集まる人を見て、陽向に耳打ちした。


「そうだよね。じつは私もこれほどとは思ってなかったよ。クラスの子も来てるよ」


 陽向がちょっと困った顔で笑うのを見て、実菜穂はあらためて人だかりの方を見た。  


「えっ、うそ、陽向ちゃん、秋人もいるよ」


 そう言いながら、実菜穂が指さす先には、良樹やクラスメイトと話をしている秋人の姿があった。


「ほんとだね。緊張する?」


 陽向は実菜穂の緊張をほぐすように笑いかけた。


「大丈夫。あまり緊張していないよ。みなもが、いろいろ教えてくれたから」


 実菜穂も笑顔で答えた。


 秋風がそよぐなか、二人の舞が始まった。稽古の甲斐もあり、二人の息は合っていた。仲の良さと、陽向がうまくフォローすることもあり、実菜穂も集中して舞うことができていた。


 人だかりの中に、ポッカリ空いている空間がある。その中に、ブラック系の華柄のフロアスカートとブラウンのセーター姿の女子と赤色の和服姿の男子がいた。男子は女子よりも一回り大きく、背も高かった。みなもと日御乃光乃神だ。もちろんこの二人の姿は人には見えることはない。みなものフロアスカートが風でひらめき、光が射すとスカートの生地から足が透けて見えていた。


「しかし、お主の格好はいつ見ても古風じゃの」


 みなもは、二人の舞を見ながら言った。


「俺は、たいがいこれじゃ。神謀かむはかりの場でも、そのような格好の神はおらぬぞ。いくら末座まつざとはいえ、もういい加減に神謀りに参上せねば」

「必要なかろう。母さと姉さが出とるでな。妹も大勢おる。儂がおらんでも気にならぬであろう」

「お前は気にもとめて無かろうが、あの件もあって、上座、太古の神からは覚えが良いのだぞ。お前が参上せぬから、いつも姉様が気をまわしておる」

「姉さといえば、雪神は姉さと同じ中座に上がっとるようじゃの。お主はまだ下座か。なかなか出世せんのう」

「お前こそ、末座からはよ上がれよの」

「お主はあほうか。儂は姉さの妹じゃ。上がりようがなかろう。まあ、上がれと言われても御免じゃが」


 みなもの言葉に、火の神はムゥーとしていた。


「それにしても、実菜穂・・・・・・ありゃあ、やりおったのう」


 みなもは実菜穂の舞を眺めて、深く思いを込めて呟いた。


「見事な舞だな」


 火の神は舞台を眺めて笑みを浮かべた。


「見事じゃな。陽向もよくしていてくれておるから、余計なことが入っておらぬ。じゃが、実菜穂の舞、あれはお主への舞ではないぞ」

「分かっておる。俺はこれが見たかったのだ。二人の曇り無き思いの舞を。お前への感謝を述べる舞をだ。これだけの思いを持つ者がいるのだぞ。ならば、お前も・・・・・・」


 火の神は、みなもの横顔を見て言った。みなもは舞から目を離さないまま答えた。


「もしかして、お主が陽向に実菜穂のこと頼んだのか・・・・・・すまぬが儂の気は変わらんぞ」 


 みなものスカートと長い髪が風でひらめいていた。みなもは、すっと息を吸い込んで、涼やかな眼差しを火の神に向けた。


「のう、いまはその話は忘れよう。お主がくれた舞台の半分。儂は嬉しい。感謝をしておる。今はお主に礼を伝えたい。そして、実菜穂にも礼に応えねばならぬ」


 火の神は笑った。まるで褒められた子供のように無邪気に笑って、みなもを見た。みなもは、その顔に笑みを返すと、二人は息を合わせて呟やく。


「礼を持って礼を伝えよ。さらば礼を持って礼に応えよ」

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