第20話 礼をもって礼を伝える(2)

 練習も一段落して、二人は休憩していた。


「しかし、陽向ちゃんも凄いよね。こんなこと。一人でやろうとしてたの?」


 実菜穂は筋肉痛になりかけている足をと叩いてマッサージしながら言った。


「正直に言うと、型だけなら一緒にできる人はいるんだけど。私は実菜穂ちゃんと一緒が良かったんだ」

「私と? 何で? 私、神楽について何も知らないし、型もできないし」


 実菜穂は陽向の言葉に驚いて、マッサージの手を止めて言った。


「そんなの関係ないよ。私ね、実菜穂ちゃんに出会えて本当に良かったって思ってる。みなものことで実菜穂ちゃんと初めて話したとき、私、「神様の声聞こえる」なんて言うの本当は凄く怖かったの。だって、今でこそお父さんは理解してくれているけど、小さい頃は、誰も信じてくれなかった。話せば怒られるか呆れられるか。本当に自分がおかしくなったのかなって思う時期もあった。でも、実菜穂ちゃん、私の言ったことすんなり受け止めてくれた。あのとき、私、凄く心が楽になったんだ。こんな人がいるんだって、こんなに当たり前のように受け止める人がいるんだって。それで、実菜穂ちゃんとみなもと話して分かったの。実菜穂ちゃんは私が知っている人の中で、一番神様に近い人なんだよ。私よりもね。これって、最強だよね」


 陽向は実菜穂の方をまるで憧れの人を見るような瞳で見た。実菜穂はその視線に何となく恥ずかしくなり、うつむいた。今までの陽向の性格からは考えられないような、少し憂いげな雰囲気を感じた。


「でもね、前にも言ったけど、私、陽向ちゃんの話を聞くまで、みなもを神様だなんて思っていなかったんだよ。それに、みなもも言ってた。陽向ちゃんは、力のある巫女だって。火の神が信用しているからこそ、声を聞かせているのだって。でも、それだと、少し分からないこともあるの」

「何かあるの?」

「うん、陽向ちゃんがみなもが見えるのは、きっと巫女としての力が強いからだと思うの。でも、どうして私が見えるのかなって。みなもにも聞いたけど分からないって言うし。初めて会ったときから見えていたようだって。今、思い出したんだけど、幼稚園に行ってたときだから、3、4歳の頃かな。川辺の祠で初めてみなもと出会ったの。そのとき、みなも、すごく嬉しそうにしていたような感じがする・・・・・・だから、私もつられて嬉しくなっていたような・・・・・・」


 陽向は実菜穂の言葉に、深く考えこんだ。先ほどの憂いげな雰囲気からいつもの陽向の感じに戻った。


「あのね、これって、私が今までみなもと話したことから感じた、勝手な想像なんだけど。みなもって人に近しき神様だと思うの。神様には、人との距離をとっている神様もいれば、全く受け入れない神様もいる」

「みなもも人嫌いな神様はいるって言ってた」


 陽向は頷いた。


「みなもは、人が好きなんだとしたら今までのことも分かるの。ほら、ジャージ姿だったり、ウエディングドレスを身に付けたり」

「あー、水着にもなってたよ。あと、この前はワンピース着ていた。でも、それが何か関係あるの?」


 実菜穂は首を傾げた。


「みなもは、人に寄り添う神様だとしたら、人はみなもが見えないのではなくて、見ようとしていないのだとしたら・・・・・・」

「じゃあ、私は・・・・・・?」

「さっきも言ったけど、これは私の勝手な想像なんだけど、実菜穂ちゃんはそこに神様がいると思って祠を見ていたんじゃないかなと・・・・・・」

「うん。でも、そこまでは正直憶えてないんだ・・・・・・でも、今は、みなもと話せること凄く嬉しいし、毎日がワクワクする。陽向ちゃんとも仲良くなれたもんね」

「そうだね」


 陽向は、いつものにこやかな顔をして実菜穂を見ると、型の練習の続きをしようと誘った。実菜穂もやる気をあげて応じた。ただ、陽向がどうしてみなものことを気にしていたのか、この時は分からなかった。

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