第18話 恋心(8)
翌日、秋人は母と朝食をとっていた。日曜日は秋人の母も仕事が休みなので、少しのんびりした時間を過ごしていた。
「秋人、最近、学校が面白い?」
「うん・・・・・・面白いかな。どうして?」
「最近、何だか楽しそうだから。良樹君と仲良くしているの?」
「してるよ。昔のままかな」
「最近、よく笑うけど、何か面白いことあるの?」
秋人の母は、興味深そうに聞いた。
「そうだな。神話が好きな子がいてね。いろいろ、教えてもらってる。話を聞いていると楽しくてね」
秋人の言葉を母は笑顔で聞いていた。秋人も少し照れるように話した。食事が終わり、秋人の母はコーヒーを二人分入れて、一つを秋人に渡した。秋人はそれを受け取り、一口飲むと母に聞いた。
「ねえ、母さん。教えて欲しいことがあるのだけど」
「なあに?」
秋人の母は、コーヒーにミルクを注ぐと軽くかき混ぜていた。
「父さんのこと。父さんてどんな人だった?」
秋人の母の手が止まった。そして秋人を見た。秋人は笑みを浮かべて、少し目を赤くしていた。それを見たとたん秋人の母も目が赤くなった。そして、秋人に優しく笑いかけた。
「そうね。秋人のお父さんはね・・・・・・」
せき止めれていた物が無くなり、水が再び流れ出すように、止まっていた母と子の時間もまた流れ出した。そんな夏の朝であった。
陽向が廊下の窓から外を眺めて、みなもに呟く。
「ちょっと、話がそれちゃった。それで、秋人のことなんだけど5歳の時に、お父さんが事故で亡くなったの。それもね、偶然通りかかった、家の火事で。その家に住んでいた人が、外に連れ出されて泣き叫んでたの。中にまだ子供がいるのだと。消防車の音はまだ聞こえてこなかった。誰もが止めるなか、秋人のお父さんは飛び込んでいったの。それで、中にいたのは赤ちゃんだった。秋人のお父さんは懐に赤ちゃんを抱いて、這い蹲りながら家から出てきたの。真っ黒にボロボロになりながら。熱風と煙を吸い込んだうえの酸欠。赤ちゃんを連れ出せたのが奇跡なくらいだったって。赤ちゃんは助かったけど、お父さんはそのまま亡くなった。当時は、小さく記事にもなったみたい。それがもとでいろいろな声も出てきたの。「英雄とか立派な行為」っていう一方「自分勝手とか迷惑な向こう見ず」って非難する声もあった。お母さんがそう言われているのを秋人は側で聞いていたみたい。残された家族にそんなこと言わなくてもいいのに。秋人と良樹は幼馴染みでよくうちの神社で遊んでた。私はそれをよく見ていて。そのときは、秋人もよく笑ってた。でも、お父さんが亡くなってからは、全然笑わなくなった・・・・・・」
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