第17話 恋心(7)
夏の祭りが始まった。陽向の神社は朝から、慌ただしくしていた。実菜穂は陽向と一緒に巫女の衣装を
「おー、何だか身が引き締まるような感じ。こんなの身に付けるの初めてだよ」
実菜穂は鏡で自分の姿を見て、右に左に向きを変えて眺めていた。
「似合っておるではないか。見た目は巫女じゃのう」
「ありがとう。でも、何だかトゲある言い方だなあ」
「そうかあ。最高に褒めたつもりじゃが」
二人のやりとりに陽向は笑いながら実菜穂の後ろに立って、一緒に鏡を見た。
「すごいよ。実菜穂ちゃん、ほんとに似合ってるね。初めてじゃないみたい。今日はよろしくお願いします」
実菜穂は基本的な作法や作業の内容を教わると、そのまま陽向と一緒に準備や雑務をし、夕刻にはすっかり巫女が板に付いた。みなもは、少し涼みたいからと一人で川辺に散歩に行くと言い、姿を消していた。
日が沈むとお参りの人が一気に増えてきた。人出もさることながら、夜店が賑やかさにさらに輪をかけた。みなもは、その賑やかさを味わうように一人歩き回っていた。実菜穂は、お札を受け取ったり、お守りを渡したりといろいろ雑務をこなしていた。何もかも初めての体験であったが、陽向もいろいろ気を回してくれていたこともあり、気持ちも楽に取り組めた。何より多くの人と接することは今まで経験が無かったことで、一番新鮮で楽しく感じていた。
実菜穂が札を受け取る係りをしていたとき、秋人が札を持ってきた。母親と自分の2枚の札を渡した。実菜穂は、それを笑顔で受け取り軽く頷く、秋人も応えるように軽く手を挙げた。
秋人と良樹は輪くぐりを終えて、神社の隣にある小さな公園のベンチに座り、さっき夜店で買ったものを食べていた。秋人はたこ焼き、良樹は焼きそばを頬張っていた。
「こんな祭りに来るのは久しぶりだな。小1くらいかな最後に来たの」
秋人はたこ焼きを膝において言った。
「お前はそうだよな。俺はこの2、3年は来てないなあ。それにしても、お前から誘いがくるなんてびっくりしたよ」
「そうかあ、何か懐かしくなってな・・・・・・」
秋人は周りの人を眺めていた。お年寄り、友達同士で来ている小学生、中学生、そして家族で来ている人たち、その家族を少し眺めて、良樹に言った。
「なあ、ちょっと聞いて良いか」
「なんだ?妙にかしこまって」
良樹は箸を止めて、秋人を見た。
「あのな、例えば、目の前にある出来事が起こっている。そのまま、放っておけば、結果は自分の望むものではなくなる。ただ、手段はある。その手段の行動を起こせば、望みは繋がる。だが、失敗もあり得るし、当然そうなれば望みは絶たれる。だけど、放っておいたからといっても、誰も責める者はいない。そんなときって、お前ならどうする?行動を起こすか、傍観するか?」
良樹は箸を空中に文字を書くように少し振りながら、考え込んで答えた。
「何か、難しいこと聞くな。お前が求めている答えになっているかどうか分からないけど、バスケの試合ではそんな場面はよくあった。圧倒的に力の差があって、かなりリードされた試合。拮抗していながら、わずかにリードされている試合。どちらにしても、そのまま何もしなければ負けだ。だったら、俺は突破口を開く。チャンスをつかみに行く。そのためには、俺は動く方をとる。当然、動けば、カウンターから相手に得点を許す結果になることもある。でも、それでも俺は動くことを選ぶ。今までだってそうだったし、これからもそうだ」
良樹は、焼きそばを一口食べて自分の言葉に納得して頷いた。
「そんなこと即答できる経験と考えを持っている。お前ってすごいな」
秋人は笑って、良樹を見た。
「お前・・・・・・絶対、バカにしてるだろう!」
「いや、ほんと、そう思うよ。お前もあいつも・・・・・・。俺なんか、ずっと考えていた。答えがでるまで何日も何日もかかった。簡単なことなのに何日も考えたよ」
「それで、答えがでたと?」
「ああ、でたよ。俺は父さんと同じだ。同じことをするって」
秋人はそう言うと、すっきりした顔で家族連れを見ていた。良樹はそんな秋人を見て、その言葉の意味を理解した。
「しっかし、あれだな、お前、最近変わったよな。いや、戻ったよな。やっともとの秋人に戻ったって感じがするな」
「そうか。そう言えば、俺が落ち込んでいるとき、神社に遊びによく誘ってくれてたな。憶えてるよ。あの時は、笑えなくて、素直に言えなかったけど、正直、嬉しかった。ありがとな」
「なんだ、急に、逆に気味悪いぞ。お前、やっぱり変わりすぎだな。それじゃ、これはそのときのお礼と言うことで」
良樹はそう言うと秋人のたこ焼きを3個奪い取ってそのうち1個を口に放り込んだ。秋人は、「あっ!」といった表情でたこ焼きを見送った。
「お前、やっっぱり、田口に勉強教えてから、感じが戻ってきたな。あいつって・・・・・・もしかして、田口のことか?そういえば、田口が巫女やってたな。雰囲気が学校で見るのと全然違ってたし、俺のクラスでも男子で話題になることあるし・・・・・・」
良樹はちらりと秋人に目を向けると、少し調子をあげて言葉を続けた。
「もしかして、今日、俺誘ったのはここに来る口実とか⁈」
「まさか・・・・・・」
秋人は、含み笑いをしてとぼけるように言った。
「あー、そう言えば、陽向、俺と一緒のクラスだぜ」
「知ってるよ。それがどうした?」
「神社によく遊びに行ってたとき、お前、陽向のこと好きだったよな。用もないのによく捕まえた虫を見せに行ってたし。ほんと今も可愛いよな。クラスの男子でも結構、人気なんだよなー」
秋人はお返しとばかりに良樹の反応を見た。
「いや!お前がそう言うと、マジでなんか怖いんだけど・・・・・・」
「あれ、ごめん。今も好きだったりして」
「お・ま・え・なー。もう、それ以上言うな」
良樹は、そう言いながら秋人の口を塞ごうとした。秋人は思いっきり笑った。
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