第16話 恋心(6)
夏休み前のプールに実菜穂たち三人はいた。三人以外は誰もいない静かなプールだった。みなもは、きらきら光るプールの水面をゆっくりと歩く。不思議な光景だ。当然、誰か他の人がプールに来たとしてもこの光景を目にすることはできず、見ることができるは実菜穂と陽向の二人だけである。プールの中ほどに行くとみなもは、スーッと右手をあげた。ジャージ姿のみなもは、足下から出で立ちが変わっていく。頭の先まで光が包んだ後には、みなもは、スレンダーラインの純白のドレスを身に纏っていた。みなもが右手を下ろすと、純白のドレスは、足下から水を吸い上げるように水色に染まっていった。
そのドレスを見て、陽向は実菜穂に声をかけた。
「あのドレスって、実菜穂ちゃん、やっぱりあれだよね」
「うん、ウエディングドレスだよね」
「みなもって、何でも身に付けられるのかな」
「そうみたい。着物姿とジャージ姿しか見たことないけど……」
みなもは、そのまま水の上で舞い始めた。きらきら光るプールの水面の上で、ドレスを纏い舞う女神。着物姿のみなもの舞は神の美しさという表現になるが、このドレス姿はどこか人に近く優美な舞に見えた。それはおそらくみなもが笑顔で舞っているからではないだろうか。みなも自身が、舞って心から無邪気に遊んでいる。そんな感じを実菜穂は受けていた。
(そういえば、川で遊んでいるとき、みなもいつも私を川の中ほどまで連れ出して一緒に舞っていたな。ぎこちなく動く自分に、みなもは笑って手をつないで舞ってくれていた。あのときって、川の上歩いていたんだ)
実菜穂はそのときのみなもの笑顔と今の笑顔を重ねていた。
みなもが、舞終えると、二人は拍手をした。
「みなもー、そのドレスどこで真似たの?」
実菜穂が声をかけた。
「あー、これかの。姉さの所に行く途中で、身に付けていた人を見てな」
「それ、ウエディングドレスだよ」
「なんじゃ、それ」
今度は陽向が声を掛ける。
「華嫁さんが身に付けるドレスだよ。みなも、そのドレスよく似合ってる!」
「そうかあ。どうりで幸せそうな顔しておったでな。それで真似てみた」
みなもは、笑ってクルリと回って見せた。
「陽向ちゃん、神様も結婚するよね」
「そういう儀もあるし、神話の中でもたくさんあるよね。でもね、けっこう神様って焼き餅やきなんだよ」
「みなもをお嫁さんにしたら、旦那さん絶対、気が気でないだろうね」
「なんか、分かる気がする」
二人は笑った。
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