第13話 恋心(3)

 実菜穂たち三人は神社にいた。


「家はこのもう少し奥だから」


 陽向は、そう言いながら奥の壁から屋根を覗かせている建物を指さした。歩く途中、実菜穂は立て札を見つけて近寄った。立て札は二つあり、一つは古い木製で文字もかすれていた。その横には金属製で木製の内容を読みやすく書いたものであった。


「再起のやしろ」と記され、書いてある内容は次のようなものであった。


 『今から600年ほど前に、この神社が建立され、まもなく戦で街や田畑は炎に包まれた。辺りは3日以上も燃え続け、炎の海と化した。しかし、そのような炎の海の中でもこの社だけは無事であった。人々がこの社に避難してくると、瞬く間に大粒の雨が降り注いだ。雨により炎は収まり、街も人々の手で復興をしていった。社はその復興を見守っていたという』実菜穂は感心して読んでいたが、みなもは、手を頭の後ろで組んで遠目で眺めていた。


「陽向ちゃんの神社って、やっぱり守られているんだね」

「そんな言い伝えもあるみたい。小さいときからよく聞かされてた」


 陽向は、実菜穂と一緒に札を読んでいた。熱心に話している二人にみなもが声を掛けた。


「のう、陽向よ。わざわざ、社内を通って行かなくてもよいのでわないか。あっちから、ちと暑苦しい者が、見とるでの」

「えっ、みなも、見えてるの?陽向ちゃんは?」


 実菜穂が、みなもと陽向を見ると、陽向は笑って首を振っていた。


「そりゃあ、見えるじゃろう。本殿越えて、不思議そうな顔しとるでな。おそらく、陽向が実菜穂と儂を連れてきたことに驚いとるんじゃろうて。まあ、来たからには挨拶せねばな。先に行ってくれ」


 そう言うと、みなもは姿を消した。


 みなもは、出されたおはぎを満足そうに食べていた。陽向が母と一緒に作ったのだと言っていた。それをにこやかに食べるみなもの姿に、実菜穂も陽向も楽しくなって笑ってしまった。


「陽向ちゃん、相談て何?」

「そうそう、もうすぐね、うちの神社で輪くぐりの神事があるの」

「輪くぐり……ああ、藁の輪っかくぐるお祭りのこと」

「そう、それ。そのときって、けっこう人手がいるんだ。実菜穂ちゃんが手伝ってくれると嬉しいんだけど」

「うん、いいよ。私にできることあるのかな」

「あるある。大助かりだよ。ありがとう。あと、もう一つあるんだけど」

「なにかな?」


 実菜穂は、お茶を飲みかけていた手を止めて陽向を見た。


「実は、その後には秋祭りでしょ、そのときは、感謝の儀があるの。いつもなら簡易な儀式で済ませていたんだけど、今年は舞を奉じることになったの」

「うんうん。そうか、もしかして、陽向ちゃんが舞をするのかな?すごいなあ。絶対、見にいくよ!」


 実菜穂は手をたたいて、陽向の舞う姿を想像していた。


「そうなんだけど。お願い、実菜穂ちゃん。私と一緒に舞って欲しいの!」


 陽向はそう言うと、実菜穂に手を合わせてお願いしていた。

 みなもはそれを見て、肩を震わせて笑っていた。実菜穂は、呆気にとられていたが、やがて家中に声が響いた。


「えーーーーっ!」

「どうしてもお願い。一人じゃ、不安で。型だけの舞なのでお願い」


 陽向が平身低頭にお願いしていた。どうも本命の相談はこちらのようだった。相変わらずみなもは、笑っている。実菜穂も頷きながら不安げに笑った。

 

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