第11話 恋心(1)
秋人の数学特別講習が始まって2週間が過ぎた。みなもと陽向が、廊下から二人を眺めていた。
「実菜穂ちゃんすごいね。完全に秋人、講師にしちゃってるよ」
「20分間の講習じゃ。それ故、聞くところを選ぶのに苦労しとるようじゃがな」
「でも、秋人があんなに他の人と話すの見たことないよ」
陽向はニコニコして眺めていた。みなもは、陽向の袖を引くと、廊下の窓際に引っ張って行った。窓からは中庭が見える。
「陽向、お主が知っていれば教えて欲しいのじゃが、あの金光という者は小さきとき何か事件があったのではないか。例えば父親が関係しておることとか」
みなもは、陽向に耳打ちするように話した。陽向は心得たように、窓を開けて外を眺めている素振りをして、みなものそばで囁いた。
「みなも、どうして知ってるの?」
「お主なら察しもつこう。神であれば、人の心の声を聞くこともできる。だが、金光とやらは、声が聞こえぬ。いや、そもそも声を出さぬ。完全とまではいかぬが、自ら黒い霧で包んでおる。儂も心に土足で入るつもりはないのでな直接触れてはおらぬが」
「みなもって優しいんだね」
「儂がか?」
「うん。実菜穂ちゃんが言ってた。みなもがいなかったら、とっくの昔に自分は壊れていたって。私もそう思う。実菜穂ちゃんは、憶えてないかもしれないけど、小学生のとき一度だけうちの神社に来たことがあったの。私は、同級生だと思って見ていたからよく憶えている。実菜穂ちゃん、私にこうやって参拝するんだよね、って綺麗に二拝、二拍手、一拝して参拝するのを見せたの。私、すごいね。って言ったら、川辺の祠でいつも遊んでくれた友達から教えられたんだって、そう言って笑ったの。すごく可愛い笑顔を見せてくれたの。そしたら、不思議と心が涼やかになるのを感じた。その友達ってみなもだったんだね。実菜穂ちゃんの心が清流のように清らかなのは、みなもが友達だったからだよね」
陽向が独り言のように呟くのをみなもは何も言わずに聞いていた。
「ちょっと、話がそれちゃった。それで、秋人のことなんだけど5歳の時に・・・・・・」
「バーン!」
陽向に実菜穂が後ろから抱きついてきた。
「今日の講習は終わったんだ。偉い偉い」
陽向が実菜穂の頭を撫でた。
「うまくいっとるようじゃのう」
みなもが二人の間に入って言った。
「うんうん。調子良いよ。この分だと期末までにはだいたい追いつきそうだよ」
実菜穂はそう言うと今度はみなもに抱きついた。
「良かったら、家に少し寄って帰らない?相談したいことあるし。みなもが来てくれたら嬉しいけど」
陽向がみなものジャージを引っ張った。
「あー、どうもあの暑苦しい神に会うのは、疲れるでな」
「えー、でも、みなもの幼馴染みでしょ」
「そんなもん、関係ないわい」
みなもは、舌をべー!して言った。
「今日はおはぎも用意してるので」
陽向はのんびりした口調で言った。
「あー、なら折角だから少し寄るかのう、実菜穂」
みなもが素早く返答すると、実菜穂と陽向は笑った。
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