第10話 自分が知らないということを知れ(4)

 実菜穂は、少し考え込んで答えた。

「つまり、相手に対して敬意を払い、無駄な時間を使わせないってこと」

「上出来じゃ。それが礼を持つということじゃ。お主は優秀じゃのう。ではないな」


 実菜穂は顔を赤らめてうつむいてしまった。


「では、礼を示すためにお主がすべきことは、何か?それは、自分が知らないということを知ることじゃ」


「みなも~、みなもが言っている意味が分からないよ」

「何がじゃ?」

「えっ、だから今言ったことがどういうことなのか分からないと」

「それはお主がもう自分で答えておるではないか」


「えっ!?」

「お主は、儂が言った言葉の意味が分からぬと申したな。言った言葉の意味は、お主の問いそのままじゃ。まずは、自分が知らない、分かっていないということを認めることから始めるのじゃ。知ったかぶりなどせぬ方がよい。分からぬものは分からぬでよいのじゃ。なら、次はそのなかで何が分かっていないのかを突き止めていくのじゃ。そうすれば、そのつまずいた箇所が必ず見つかる。そこがうまく流れれば、問題は解けるのじゃ。教えを請うべき所はそのつまずいた箇所じゃ。それを整理しておけば、相手もその解決に力を注げるのじゃ。何を知りたいのか、何が必要なのか、相手に明確に伝えるのが礼儀じゃ」


 そう言われて、実菜穂は数学の答案用紙を眺めた。今度は一問、一問自分の解答を見ていった。


「みなも、何となくだけど、自分のあほさが分かってきたよ」


 実菜穂は、ノートを取り出すと、自分が分かっていないことを書き出していった。


「みなもの言葉でなんだか、金光さんに聞けそうな気がするよ。みなも、さすが神様だね。学問の神様にもなれるんじゃない」

「儂にそのような力はないぞ。あと、縁結びや仕事関係を相談されても困るでな」 


 みなもと実菜穂はゲラゲラ笑った。


(金光の心の扉も実菜穂の力なら案外開くかもしれぬな)


 みなもは、スッとその場を去った。


 翌日、実菜穂は金光秋人の席の前に立っていた。


「金光さん、お願いがあります。数学の問題で理解できないところがあって教えてほしいので、今日、20分だけ時間いただけますか」


 実菜穂は、昨日整理したノートを示して、真剣な眼差しで金光にお願いした。

「分かったよ。放課後でいいのなら」


 金光秋人は実菜穂の勢いに押されて返事をした。


「ありがとうございます」


 実菜穂は微笑んで席に戻ると、廊下に立っていたみなもに向かってOKのサインを出した。

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