第8話 自分が知らないということを知れ(2)

 みなもは、実菜穂と向かい合って座っていた。相変わらずのジャージ姿は、とても神様とは想像できず、むしろ可愛い同級生を思わせた。


「一つ目なのじゃが、これはさっきも言ったでな。短所はバッサリ切り捨てろ」

「苦手なことは苦手なままで良いと」


「そうじゃ。苦手なことや短所を克服するのに、無駄な時間と労力をさく必要はないぞ。試験のように完全に捨てることができない場合は、最低限の努力でよい。その代わり、己の長所や得意なものには存分に力を入れて伸ばすのじゃ。その方が、己の価値は高まる。価値が高まれば己の力を欲する者も現れよう」


「何だかすごく強引だけど、分かるような気がする。教えてもらうのなら一番強い者からというのもそういうことだと」


「そのとおりじゃ。飲み込みが早いではないか」


(みなも、本当に強引だなあ・・・・・・)


「では、二つ目じゃ。己の短所、弱点はさらけ出せ」

「えっ、なんか意外。強くするとかではなくて・・・・・・」

「お主は、あほうか?」


(あっ、でた。これ、前にみなもに言われたなあ)


「さっきも申したであろう。弱いところは弱いままでよい。その分強きところを伸ばせばよい。己の強きところと弱きところを見せればよいのだ」

「強きところはよく分かるけど、弱いところを見せるのは何か抵抗あるなあ」


 みなもは、机に並べてあった答案用紙を指さすと実菜穂に言った。


「この試験の中で、お主が得意なのはなんじゃ?」

「えーとね、これ、国語と社会の歴史。国語は特に古文だね。みなものことすごく好きだし、みなもが過ごした時代も追ってみたかった。そしたら色々知りたくなって、興味もって勉強したから楽しかったよ。国語90、社会は98だよ。これは嬉しかったな。よくやったと自分を誉めたよ。みなもに感謝してる」


「ああ、そうかあ・・・・・・」


 みなもは顔を少し赤くしてうつむいた。


(みなも、照れてるの・・・・・・神様も照れるのかな。なんだか可愛いね)


「みなも、どうかした?」

「どうもせぬ。お主と話すのはわしも素直に楽しい」


 みなもは、照れ隠しをしながら、話を続けた。


「よいか、お主が国語と社会は90点以上で得意です。でも数学は35点レベルだよ。と言ったとする。それを聞いて、お主に国語を教えてほしいという者は出てこようが、数学を教えてほしいと言う者はおるまい」

「そうだよね~」


「じゃが、このときお主が社会と国語の得意なことだけを伝えて、数学が苦手なことを隠していたらどうじゃ。もしかしたら、数学も得意なのではないかと考える者が、お主に数学を教えてくれと頼みに来るかも知れぬ。そうなれば、お主はそのことを説明しなければならない。人は期待を裏切られるのを嫌うものじゃ。期待をすること自体が間違いなのに気づかずにじゃ」


 みなもは、実菜穂の隣にくると頭を優しく撫でて話しを続けた。


「人は己を良く見せたい性がある。それ自体は悪うない。じゃが、己の短所、弱きところも見せておけば、相手はそれを知ったうえで己を迎えてくれる。なのに、己の良きところだけしか見せないのであれば、相手は勝手な想像で己を迎え入れよう。結果、相手は期待を裏切られ、己も傷ついて疲れるだけじゃ」


 実菜穂の頭にフラッシュが瞬いた。


(そうだ、自分だ。これは自分なんだ。もっと、自分の弱さを出していれば、みんなに合わせようとあれほど苦しんで疲れなくてもよかったのでは・・・・・・)


「この世には多くの人がおる。全ての者と馬が合うなどあるわけがない。馬が合わぬなら合わぬでよい。近づかなければ良い。初めから短所、弱きところをさらけ出しておれば、合わぬ者は近づかぬでな。手間が省けるのじゃ。それは、神でも同じじゃて」


 みなもはそう言いながら実菜穂に笑いかけた。

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