第7話 自分が知らないということを知れ(1)

 これは、ピンチだ……実菜穂は、答案用紙を眺めて絶望していた。中間テストの答案が返ってきた。答案を机に並べて実菜穂は頭を抱えていた。その中で目立つのが数学の点だった。100点満点中の35点。笑うに笑えなかった。みなもはその様子を覗きながら、実菜穂に声をかけた。


「そうとう困っておるようじゃの。学校でも怒られとったな」


 実菜穂はうなだれていた。


「数学はどうも駄目。もともと、苦手だったうえに、こっちに来て気持ちが落ち込んで勉強にも手が回らなかったし、そのままだったからなあ。言い訳なんだけど……」

「苦手なものは仕方あるまい。無理して得意にする必要もないでな」


「まあ、そう言われると気は楽だけど、平均点が下がるからそうもいかないよ」

「では、とりあえず、最低限の力を付けておけばよかろう。例えばあと25点分の力を付けて60点ならどうじゃ」


「うん、それなら何とか。あと、25点か。なんか少しできそうな気がしてきた。でも、何をしていいのか……」

「教えてもらえばよかろう」


「そうかあ、誰だろう。陽向ちゃんかな」

「陽向は数学が強いのか」


「強いという程ではないけど、良い方だと思う」

「じゃあ、お主の教室で一番数学に強いのは誰じゃ」


「あー、金光秋人かねみつあきとさんかな。学年でも一番だと思うよ」

「では、その者に教われば良かろう」


(えっ、それはむり、ムリ、無理!)


 実菜穂は衝撃的な言葉に飛び上がった。


「みなも、無理だよ。金光さんとは一言も話したことないし。なんだか人を寄せつけないというか。お願いしにくいというか」

「お主が言うか……」


 みなもは、すかさずツッコンだ。


(確かに。自分もほんの2か月前までは、人を避けていたっけ……みなもの言うとおりだ)


「そうだよね。話してもないのに、金光さんのこと解らないよね。余計なこと言っちゃった。ごめんなさい」


「ところで、金光とやらは、もしかしてお主の斜め後ろにおるメガネを掛けた者か。あの顔立ちなら、さぞ女子も寄り付こう」

「そうだよ。あー、確かに女子に人気あるかな。頭良いし、クールな感じで。でも、私はやっぱり苦手なタイプだよ。みなも、よく知ってるね」

「お主の学校におる者はたいがい見たでな。そうか、あやつが金光か。実菜穂、案外なんとかなるかもしれぬぞ。特にお主ならうまくやれるかもしれぬ」


 そう言いながら、みなもはニンマリと笑っていた。その笑顔を見て実菜穂は少しひきつった。


「みなも、なに言ってるのかよく分からないんだけど。なんか、ちょっ~と、怖いんだけど」

「気にせんでよい。まあ、バーンとやってみれば良いのではないか。第一、ものを教わるには何事においても一番強い者から教わるのが筋じゃ。じゃが、そのまま『解りませぬ』と教えを請うても、バッサリ返り討ちにあうのがオチちじゃろうのう。まあ、これからのこともあるでな。お主に教えておきたいことが三つある」


 みなもはそう言いながらまた笑った。


(なあんか、みなもに乗せられているようだけど。でも、なんとかなるかな。みなもがそう言うのなら)


 実菜穂は、みなもに頷いてみせた。

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