転生日記
ゆうさむ
転生日記
俺には誰にも話していない秘密がある。それは俺が20年前にこの世界に転生したという事実。その事実は誰にも話さずに心に秘めてながらこの20年を過ごしてきた。俺の数ある中の隠し事というわけだ。
転生したのは俺が14歳の頃、道端を歩いていると突然後方からトラックが激突した。俺はちゃんと交通ルールを守りガードレールの内側を歩いていたのにも関わらずトラックが突っ込んできたという事実から察するに、トラックの運転手が居眠り運転かよそ見運転、あるいはそれに類する何かをしている途中だっとことは想像に難くない。
まぁ何にしても今じゃ確かめようのない事実であるため、考えるだけ時間の無駄だ。とはいえ無駄ではあるが、転生する原因なので俺の自己紹介をするためにはここは外せない。なんたって俺が産まれる原因になった出来事だからだ。
さらに自己紹介を深堀りして、俺の前世についての話をしよう。なお、今後前世といった場合は転生する前のことを指し、今の世界での生活を現世と言うものとする。ここをはっきりさせとかないと説明がわかりにくくなるかもしれないからな。
さて、話の続き。前世の俺は何不自由なく育てられた普通のこどもだった。共働きの両親と優しい祖父母が住む古い一軒家で慎ましく暮らす一人っ子。昼間は両親が居ないので少し寂しいときもあったが、祖父母が本当に良くしてくれたので寂しさは最小限で済んだと思う。それに両親も俺のことを育てるために必死で働いてくれていた事を考えると責める気もならない。時間があれば俺と遊んでくれたし、いつも美味しいごはんを作ってくれたり、我が両親ながらケチのつけようのない2人だった。
とはいえ俺にも反抗期はある。両親の言うことに意味もなく逆らったり、門限を破ってみたり、夕食前に買い食いをしてしまったりと今考えると何でそんな事をしたの全く理解できない。あの頃の自分はどうかしていたとしか思えない。
そんなある日、俺が家のしきたりも学校の校則をも破り、買食いして帰っている途中にトラックに後ろから突っ込まれて死んでしまった。即死だった。
死後、生まれ変わった直後は、親より先に死ぬなんて俺はなんて親不孝者だろう思った。せっかく頑張って育ててくれた両親や可愛がってくれた祖父母に申し訳がない。
でも、謝罪したくてももう2度と会うこともできない。当事者として死んでしまったのは俺だが、時として死んでしまうということは本人より周りの人間を不幸にしてしまう。
俺は死んだことにより転生して第二の人生を歩むことができたが、両親にとっての俺は、そこで人生の幕を下ろしている。たとえこちらの世界でどんなに楽しく過ごすことがてきたとしても、こっちで幸せになってもその事を家族に伝える事はできない。
俺の両親や祖父母はとても悲しんだだろう。あれだけ気にかけてもらっていたんだ。こんな事になってしまって本当に申し訳ないと思う。
だが、すぐにそんな事は言ってられない自体だということが判明する。俺に第二の人生のスタートは険しいものだった。
現世での俺は、極めて貧しい家の5番目の子供として産まれた。そして産まれて数年経ったあと森に捨てられた捨て子となった。
偶然通りかかった冒険者に拾わなければきっとその時点で死んでいただろう。その時から俺はこの世界での名前"ヒューホレスト・ナイトクール3世"と自分を名付け、この世界で生き抜くことを決意した。
ちなみの名前の元は前世での名前、"小林涼夜"を言い換え、さらに強そうな感じにしたもので、3世はなんか泊が出そうだなと思って勝手に付けた。死んだ時の年齢が14才だったこともあり、いわゆるそうゆう時期に突入していたわけであるが、その点を考慮しなくても結構いい名前を考えついたものだと自分では思ってる。ナイトクールってすごく格好良くない?
話題を戻すがヒューホレスト・ナイトクール3世となった俺は、拾われた冒険者からサンセイと呼ばれつつ行動を共にし、この世界で生き抜く知識などをいろいろと教えてもらった。
ちなみに転生特典なのか、俺には極めて強い魔力があり、子供ながらに強い魔術を使用することができた。その事は拾ってもらった冒険者たちを大層驚かせた。
この冒険者達は俺にとっては育ての親とも言える存在であり、しかもとても明るくいつも元気なで優しい人物たちであったため俺のことをよく可愛がってくれた。
剣術も教えてくれたし、魔術も教えてくれたし、この世界の通貨、流通、果ては生き方までを惜しみなく伝授してくれた。俺はそのことに深く感謝し、人達に受けた恩は一生忘れないとこを心に刻んでいる。
さらにこの冒険者達はとても優秀な人物たちであるらしく、様々な頼まれごとをされては、やれ何とか火山だのやれ何とか砂漠だの、いろいろなところに足を運んでは巨大なモンスターと戦闘し、次々と勝利していった。
俺も冒険者も何度、死にそうになったかわからないが、それでもその冒険者達はいつも明るく、笑いながら困難に立ち向かっていく。その姿はとても尊敬できるし、俺自身がこうなりたという理想の姿だった。
それからしばらくその冒険者達と行動を共にしていたが、ある時冒険者達の一人が大怪我をし、もう二度と冒険には行けない体になってしまった。
俺やメンバーの魔術師が必死で回復魔術を施しても治すことはできなかった。それでも俺はずっと回復魔術をかけ続けて何十時間経ったとき、俺は魔力切れで気絶してしまった。
気絶から意識を取り戻すと冒険者たちからパーティを解散すると言ってきた。もうみんな冒険するには年を取りすぎていると感じていたと一人が言った。
そして俺に向かって、お前はもう一人でも生きていけるといった。俺はこの人達と別れたくなかったので、何が何でもこの人達に付いていきたいと思った。もう冒険なんてしなくていい。田舎でひっそりと暮せばいいじゃないかと思った。
だが冒険者達はそれを許してくれなかった。お前には才能がある。こんなところでやめてしまうのはもったいないと夜通し説得され、俺はついにパーティを抜けて、一人で冒険を始めることになった。俺がその事に納得して寝静まったあと、冒険者たちは全員その夜のうちにこっそり居なくなっていた。
置き手紙に"別れを言うと辛くなる。すまない"と書かれていた。俺は泣いちまったね。今世界に来て一番泣いたかもしれない。だってそうだろう?この世界に来て、この人達に出会って、ずっと助けてもらってきたんだ。恩を返せずにいきない居なくなるなんてそりゃ反則だぜって思った。
けど文句を言いたくてもその相手は全員いなくなってしまった。感謝の言葉もお別れの言葉も言いたかったのに!悲しいからって言わせてもらえないなんて酷いと思った。
でもよくよく考えたら俺だって同じことをした経験がある。前世で俺は突然、家族の元から居なくなったんだ。その時の俺の家族はそれはそれは悲しんだんだろうと思う。今の俺より悲しかったのではなかろうかと思った。
結局俺は、一日中泣きはらしたあと、このままではいけないなと思って街に出た。当面の資金は冒険者たちが残していってもらったので何とかなるが、それでも働かないとすぐに食いっぱぐれてしまう。
俺はこの金も気に入らなかった。冒険者の一人は俺と違って怪我して動けなくなったんだから、金ぐらいもっと持ってけよと思ったが、今更返金もできないので、渋々だが使わせてもらうことにした。
とはいえ、その時の俺は10才を過ぎたぐらいの頃だったため、魔物退治のような割のいい依頼を受けることはできなかった。依頼自体に年齢制限は無いが、10才程度の見た目なので信用してもらえなかった。
とはいえ仕事はしなければ俺は近いうちに餓死してしまう。俺はギルドの受付にどんな仕事でもいいからと頼み込んだ。その結果、ギルド受付は俺の熱意に押され、少し仕事の依頼を分けてくれた。
とはいえ依頼を熟すのは大変だった。ドブ掃除やごみ拾いは良かったが、失せ物探しや居なくなったペットの捜索は結構きつかった。どのぐらい時間がかかるかわからないし、ペットなんて死んでいたら金にならない。死体を見つけても依頼人からは罵声を浴びせられるし、報酬はもらえないしで散々だった。そんな俺のことを周りの冒険者は遠巻きに見ていただけ。まぁ大切なペットが死んだんだ。激怒されて当然といえば当然なんだろうと思った。
たが、罵声が一通り終わり、依頼人が帰ると周りの冒険者たちは俺に近寄って、元気出せよと励ましてくれた。ここにいる冒険者達はこういった依頼を受けた経験があり、俺の今の痛みを理解してくれていたようだ。
そんな日々を続けていると、ギルド内でも俺のことを仲間だと認めてくれる奴らも出始めてきた。俺は相変わらず辛くてひもじい生活を送っていたが、依頼を終わらせたあと、ギルド内でその冒険者達と話すのはとても楽しかった。
彼らは自分の冒険のことを面白おかしく話してくれた。こんな魔物を倒した、だけどこんな失敗をしたとか、大事な装備を落としてしまってその依頼は割に合わなかっただとかそういった話をしてくれるようになった。俺は酒は飲めなかったが、時々飯に連れて行ってもらってご飯をごちそうしてもらっていた。
俺は俺を拾ってくれた冒険者が居なくなってからあんまり笑えていなかったが、このギルドに来て、仲間だと受け入れてくれるうちに自然と笑えるようになっていた。
そんなある日、ギルドの受付から声をかけられる。ギルドの受付が言うには、小さな依頼を熟す姿を見て、俺にだったらもっと上の依頼でもやり遂げられるだろうと判断したとのことだ。つまりは今までできなかった依頼を受けれるようにしてやろうという話だ。
俺は喜んで礼を伝えるとギルドの受付は苦い顔をした。そして受付は険しい顔である条件を付けてきた。その条件というのは誰でもいいからパーティを組めということ。
流石に10才過ぎたばかりの子供一人に、魔物の討伐依頼を押し付けるのは気が引けたのだろう。俺は途方に暮れてしまった。正直俺と同ランクの知り合いは居なかったし、ギルドで知り合った冒険者達にこんな最底辺の討伐依頼を手伝ってもらうなんてできない。彼らも生活があるのだ。
俺がどうすれば良いか思案していると、ギルドの受付は一つ提案をしてきた。もしその気ならパーティはこちらで見繕ってやろうと言ってきた。聞けばちょうど俺と同じくらいの年齢で、同じランクの子供が、俺と同じで依頼を受けられずに困っているらしい。
俺は二つ返事でその提案を聞き入れ、早速俺と同じ境遇の子供に会うこととなった。場所はギルドの受付がセッティングしてくれたので俺は労せずしてその子供に会うことができた。
俺はその子供を見て息が止まった。赤色の長い髪、きめ細やかな肌、緊張しておどおどしている仕草。つまるところとても可愛かったのだ。この少女は魔術学校を飛び級で卒業した天才児だが、いざ、ギルドで依頼を受けようとしても年齢も低いし、おどおどした性格も災いしてどのような依頼も振ることができず困っていたらしい。
まさか飛び級で卒業した天才児にドブさらいをさせるわけにもいかないと困り果てていたところに俺が来たというわけだ。俺はギルド受付に感謝したね。こんな可愛いことパーティを組ませてくれるなんて粋なことするじゃないか。全くいつもはつっけんどんとしているくせに憎いやつだぜと思った。
そして俺たちは互いに自己紹介をしたがここで一つ問題が発生する。ヒューホレスト・ナイトクール3世ってダサくね?しかも言いづらいし。しかしギルドではその名前で登録してしまったので、今の瞬間に変える事はできない。なんでこんな名前にしてしまったんだ。馬鹿か俺は。と自分を責めたが、そんな事をしたって今の問題を解決する事はできない。仕方ないので俺は"サンセイ"とだけ名乗った。
それは俺を拾った冒険者が呼んでいた名前で、今考えれば明らかにいじられているが、とりあえずその名前を少女に伝えた。少女は変わった名前だねと微笑んでとても可愛かったが、正直あまりの恥ずかしさのあまりその笑顔を直視することができない。やめてくれそんな顔を向けないでくれ後生だからと心のなかでは祈り倒していた。
かくして俺と少女はパーティを組んで冒険にでかけた。最初の依頼は、最近森から降りてくる猿型の魔獣を退治して欲しいという依頼だった。その依頼は俺たちだけでなく、低ランク冒険者複数に依頼をかけ、倒した数によって報酬が決まるという歩合制の依頼だった。他のグループにも依頼されているということで、俺らが討伐に失敗してもそれほど大きな問題にはならないため、気軽に参加することが出来る。
とはいえ相手は魔物なので気を抜くと大怪我につながるかもしれない。とにかく俺達は依頼主の住む村に行く事にした。兎にも角にも話を聞かないと始まらない。
俺らは街を出てその、村に向かった。その時のことはよく覚えている。晴れた天気と穏やかな風、鳥たちのさえずり。俺はとてもワクワクしていた。依頼を受けられたことも、少女とパーティを組めたことも嬉しくて、走り出したい気持ちでいっぱいだった。
だが、少女を見るに運動は得意そうではなかったので、走るのは心のなかで却下。その代わりいろいろな話をした。出身はどこだとか、魔術学校はどこだとか、学校ではどんな勉強をしただとか。少女は最初はおどおどしていたが、次第に緊張が和らぎ、いろんな事を話してくれた。
そして俺のことにも興味を抱いて色々質問してくれた。俺が自分の身の上話をすると、すごいねと目を輝かせて言ってくれた。俺は調子に乗っていろいろなことを話してしまったが、前世のことだけは言わないでおいた。気を許してくれた少女からこの人頭が変なんだと思われたくない。
少女と話しているとあっという間に目的の村に到着した。俺らとりあえず真っ先に依頼人の元へ行き、話を聞きに行く。依頼人と会うと、俺たちの年齢を見て冷やかしだと思って軽くあしらわれた。だがギルドの依頼状を見せると、渋い顔をしながら安い仕事には手を抜くってのかいと呟いて依頼内容を教えてくれた。
内容を要約するとこの近辺では昔から猿型魔獣の被害が毎年起きている。魔獣はそこまで強いものではないが村人が戦うには手に余る上、ずっと魔獣が入ってこないように見張るのは手が足りない。だからそれを退治するように依頼をしたとのことだった。確かに畑仕事のある村人が魔物まで退治していたら大変だ。
俺は依頼人にお礼を言い、次は村の宿屋に向かった。この村は小さいながらも毎年の猿型魔獣騒ぎで冒険者もよく訪れるため、宿屋はしっかりとしたものがある。その宿屋の部屋を一部屋取る。少女には申し訳ないがお金もそこまでなかったので2部屋取る余裕はない。今回は我慢してもらおう。少女は顔を赤らめながらも了承してくれた。そして俺らは宿屋に荷物をおいて、早速、猿型魔獣を退治すべく森へと向かった。
結果だけ言えばその日は空振りだった。流石にそう簡単にはいかないかと落胆し、その日は早めに宿屋に戻ることとなった。猿型魔獣は基本的には夜明けに来るので、今日は早めに寝て明日に備えるのが上策だろう。昼のうちに何匹か仕留められるなら、その魔物がどういう特性を持っているか調べられたが、出会わなかったものは仕方ない。俺たちは気を取り直して、夜明けに向けて早めにベットに入る。
そして俺は少女に起こしてもらって目が覚めた。自分で起きれなかったのは情けなかったが、今はそうとも言ってられない。すぐさま猿型魔獣を撃退する為に外に出た。するとそこには何匹もの影が畑に入っているのを確認した。それにその影を剣や魔術で撃退している姿も目に入る。
出遅れたかと思い、焦る俺の服を少女が引っ張った。少女の焦っちゃダメだよという言葉で俺は冷静さを取り戻す。確かに焦って突っ込めば他の冒険者の攻撃に巻き込まれるかもしれない。そうならないために少女は俺を冷静にしてくれたんだ。俺は少女にありがとうと言うと影たちの方を見た。
そして剣を抜き一番近くの影に斬りかかる。猿型魔獣の動きは遅く簡単に切り裂くことができた。そして俺は次々と猿型魔獣を倒し、何匹も死体を積み上げる。少女も少女で魔術を使用し、猿型魔獣を何匹も仕留めている。さすが魔術学校主席。出力も魔術的中率も高い。
俺と少女が集中して猿型魔獣を撃退しているうちに夜が明けた。その頃には倒した魔獣の数は50にも登ろうかとしているところだった。俺は夜が明けると猿型魔獣の死体を換金してもらうため、依頼人の元へ持っていった。
そうすると、依頼人は目を丸くして、本当にこんなに倒したのかい?と質問してきた。俺と少女は揃って頷いた。かくして報酬をたくさんもらって街へと帰る。数日は滞在する予定だったが、俺達がたくさん倒せたのでもう大丈夫だろうということで依頼達成ということとなった。
2人でギルドに戻ると、ギルドの受付が駆け寄ってきて怪我でもしたのかと慌てて言ってきた。俺が依頼のことについて説明すると、受付は目を丸くして、本当かと疑ってきた。俺は本当だよと何度も言ったがなかなか信じてくれなかった。最終的に達成印を押された依頼書を見せることで一応は納得してくれたが、疑惑が晴れることはなかった。
それから数ヶ月の間、何回も少女と依頼をこなし順当にギルドランクを上げることができた。少女とはパーティとして信頼しあえるような関係になった。
だがそんな日は長くは続かなった。ある時、少女が暗い表情で、少女に婚約の話が持ち上がっていることを俺に相談してきた。驚いている俺を尻目に、少女は矢継ぎ早に言葉を続けた。婚約なんてしたくない、もっと冒険を続けたい、もっと魔術が上手くなって人の役に立ちたい。そういった言葉が一つ一つ少女の口からどんどんこぼれる。
俺は少女の言葉を聞きいていたが、内心は穏やかではなかった。短い間でも俺はこの少女に大きな信頼を寄せていたし、少女の幸せを願うようになっていた。だが、今の少女は表情も暗く、とても落ち込んでいた。
俺はこの世界の婚約について全くの無知だ。どうしてこんなに落ち込むのかも理解できない。だが、少女がこんなに落ち込んでいるのは心が苦しくなる。少しでも明るなってほしい。だから俺は、後ろ向きに捉えないで。もしかしたらいい人かもしれないと前向きになれるようにそういった。そうすると少女は小さく頷いた。そしてわかったと言って、そしてごめんね、ありがとう、さようならと言って俺の元から去った。
それからしばらくの俺は依頼に身が入らなかった。依頼はかろうじて熟せてはいたが、身に入らなかったので小さなミスはたくさんした。それではダメだと思ってしばらく仕事を休みたいと受付に言うと、別にお前は勤めているわけじゃないから自由に休暇は取っていいんだぞと言ってくれた。
受付は俺の様子を見て、あの少女のことで身が入らないと察し、少女の婚約について教えてくれた。婚約というのは受けた側に断る権利がないということ、結婚したら家から殆ど出れなくなること、冒険なんてもっての他だということを教えてくれた。俺はその内容に驚き、じゃあもう少女は帰ってこないのかと質問した。ギルドの受付は重々しくそうだと呟く。
俺は途端に走り出した。少女の家がどこかも知らないし、少女が今どこにいるのかも知らない。だけど、彼女を探すために街中を走り続けた。だが見つけることはできない。少女は家の中にいるため、街の中を探し回っても見つかるわけがない。
俺は自分の事を恥じた。俺は少女にもしかしたらいい人かもしれないなんて知ったふうな口を聞いてしまった。彼女に嫌な運命を受け入れるように諭してしまった。それがどういう意味かもわからずに。俺は馬鹿だ。どうしようもない馬鹿野郎だ。
俺は自分を攻めているとき、偶然ギルドの受付と街でバッタリと出会った。そして少し話をした。俺はギルドの受付に俺が少女に言ってしまった言葉や、その言葉にとても後悔しているという想いを吐き出した。それを聞いたギルドの受付はあの子を取り戻したいかと聞いてきた。もしかしたらこの国自体を敵に回すかもしれない、お尋ね者になるかもしれないぞ。と俺に聞いた。俺はそんなの関係ない。あの少女を助けたいと言った。
そうするとギルドの受付は頷いて、パンパンと2回手を叩いた。そうすると俺達は何十人の大人たちに囲まれる。その大人たちは見たことがある奴らだ。いつもギルドで話していいる冒険者達。俺はギルド受付の顔を見て、これはどういうことかと問うた。するとギルドの受付は、今日の俺は冒険者ギルドの受付じゃない、盗賊ギルドの受付だといった。
そして俺たちは少女の屋敷に向かった。到着したときには日が暮れて夜になっていた。突然、冒険者ギルドの一人が叫びながら屋敷に突っ込む。それを皮切りにたくさんの冒険者が屋敷に向かっていく。俺はあっけに取られてその光景を見ていたが、何人かの冒険者に背中を押され、行って来いと言われた。
俺は頷いて、屋敷の中に入る。俺は阿鼻叫喚の屋敷の廊下を走り抜けてた。捕まりそうになりながらも、冒険者に助けられながらも屋敷の廊下を走り抜ける。そして少女をやっと見つけた。
きれいな部屋でネグリジェを身にまとい、泣きはらした目をした美しい少女。驚く少女に歩いて近づき俺はひざまずいた。
俺はまずごめんと謝った。そして俺はこの時、まだまだ一緒に冒険したいといった旨の内容を口にしたと思う。正直頭が真っ白で何を言ったか覚えていない。でも、彼女が微笑んだことと、それがとても美しかった事は覚えている。
少女はもしその気持に偽りがなければ待っていてほしいと言った。何年かかるかわからないけど絶対貴方のもとへ行くからと。俺がその言葉に頷くと少女は今日は帰ってと告げた。そして、いい?絶対会いに行くからと念を押した。結果として、俺は少女を連れ去ることができず、すごすごと屋敷を後にした。
ちなみに屋敷を襲った冒険者達について、何故か突然現れた冒険者ギルドの精鋭たちによって撃退されたらしい。誰ひとりとして逮捕に至っては居ないが、強盗に対して勇敢に戦った冒険者ギルドは称賛されている。その話を聞いた時なんだそれと笑ってしまった。
かくしてこの日を最後に少女の姿を見ることはなくなり、そして俺も様々なパーティを渡り歩いて、順当に依頼をこなしていった。数年が経ち、体が大きくなると、冒険者ギルドの仲間たちと一緒に依頼に挑戦するような間柄となり、本当の意味で仲間になることが出来た。これもすべて、俺を拾ってくれた冒険者たち、受け入れてくれた冒険者ギルドの仲間たちのおかげだ。今の俺は毎日が楽しい。
ちなみに俺を拾った冒険者達に再会することができた。呆れたことにあの怪我をした冒険者は数年経つとすっかり怪我を治し、再びあのパーティーで冒険を続けていたらしい。あんだけ俺は悲しんで泣いたのに何だよそれと思わず笑ってしまった。
それから何回か一緒に冒険に行ったりしながら、昔の恩を少しで返そうと努力した。そんなのいらないと笑われたがそれでは俺の気が済まない。ということで俺は拾ってくれた冒険者達に老後の足しに出来るくらいのお金を稼がせてやった。生意気だと言われたが、彼らの顔は笑っていたのであながち無駄なプレゼントではなかっただろう。そんな事をしながら10年の時が過ぎた。
この年になってようやく酒にも慣れ、最近では夜は決まって酒場に入り浸るようになった。冒険者としての情報は酒場に集まるため、酒場で聞き耳を立てるのも仕事のうちだと先輩から教わった。だが、その先輩はいつも決まって呑みすぎて記憶がなくなるので正直この教えは正しいのか疑問を持っている。とはいえ、善意で教えてもらったことは確かなので、とりあえず実践している。
そして今日も俺はこの酒場で酒を飲む。一人でカウンターに座り、ビールを飲んでいると閉店間際に人が入ってくる。足音から察するに体重は50kg前後の女性が一人。俺はこんな時間に酒場に来るなんてどんなやつだろうと思って振り向いた。
そうして俺は女性の顔を見て驚いた。もう少女でなくなったあの日の少女がそこのに立っていた。そして彼女は俺のことを見て口を開く。
「ただいま」
そう言って彼女は満面の笑みを浮かべた。
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