第終話 「聞いてくれ」

「葵。聞いてくれ。」


「いつもの屋上に呼び出す……まるで少女漫画かな」


「残念だが、そんな綺麗な物じゃないよ」


珍しく平塚と言う男に呼び出された都宮葵は、茶化すようなセリフとは真逆の表情をしていた。しかしその顔を見せるつもりがない事は、背中を向けていることから汲み取れる。


「告白かい?」


「ああ」


「私に?」


「……ああ」


 そうかい。と言う葵は顔が良い。


 そして、平塚の幼馴染である。


 しかし、幼馴染では…


「実はついさっき」


「告白された。そうなんだろう?」


「ああ、その通りだ」


「全く君はさ、ひどい男だよ。告白されてすぐにここに来たんだろ?」


「……そうだな。でも、これまでのお前との関係に甘えてた俺の方が、もっとひどかった」


 幼稚園の頃からの付き合い。


 家も隣同士で毎日四六時中一緒だが…


「私も、甘えていたんだ。君との関係に」


「……ずっとこのままなんだと思ってたんだ」


「…」


「中途半端な関係。温い慣れあい。幼馴染っていう何かに身を任せるんだと思ってた」


「……ダメだったのかい。私たちの関係は」


「ダメだ。俺は、言われて気付いたことがあるんだよ。幼馴染としてのお前ではなく、都宮葵としてのお前を見ないといけないってな」


「……平塚、私は君が好きなんだ。異性として意識していたし、アタックもしていた。でも、告白は出来なかった。きっと私も、心地よいなあなあの日常に縛られていたんだ」


 葵はゆっくりと平塚の方向へ振り向く。




 気付いていたんだろう。わかっていたんだろう。


 しかし、長く逃げることができなかった……いや、逃げようともしなかった心地よい停滞は。


 今、崩壊する。



「平塚、私は君と」


 と最後まで言いかけたところで、「待ってくれ」とストップがかかる。


「俺に言わせてくれないか」


「……じゃあ、お願いしようかな」




 都宮葵、どうか俺と…

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基本的に余裕たっぷりの顔の良い幼馴染がたまに重めにキャラ崩壊するのがかわいい。異論は認めん。 @ASSARIASAKI

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