サンタはパシリじゃありません。グレたサンタはプレゼントを運ぶんじゃなくて、お主らを運んでやる!?

西東友一

第1話

 雪が降っていた。


「わし、もう引退する」


 サンタさんがトナカイにそう告げた。


「なんでなんっ!?」


 寒い夜空の下、子どもたちに配るプレゼントが入っている木の箱の上に座り、一歩も動こうとしないサンタさんの肩をトナカイは前足で揺らす。


「わしらの配っている物ってなんじゃ?」


 サンタさんがじーっとトナカイの目を見る。


(あっ、これ外したスネるやつや)


 トナカイは少し考えて、


「夢と…希望と…」


「おもちゃじゃ」


(えーーっ、直球ドストレート!?)


 サンタさんの無慈悲な回答にびっくりするトナカイ。


(てか、それって聞く必要ないよね? ねっ?)


 でも、そんなツッコミを入れれば、やる気をなくしてしまうに違いないので、トナカイは言うのをぐっと堪えた。


「まぁ…おもちゃもおもちゃで、大半がゲームじゃ」


 そう言って、木の箱を軽くたたくサンタさん。


「夢と希望…わしにもそんな風に思っていた時がありました」


(あれ、これ話長くなるやつか? 長くなるやーつなのか?)


 サンタさんは立ち上がり、腰のあたりで手を組んで、夜空を見上げる。


「でもな、ゲームってそれ、企業が作ってるじゃん。わしは何じゃ? 魔法で複製していると思われているんか? でもそれって偽造じゃん。企業の利益妨害しているじゃん。それとも、盗んでいると思っているんか? それとも、企業から貰って配達しているんか? それって、パシリじゃん」


「そんな風に思う子どもは…いないと思いますよ?」


 トナカイがサンタさんをなだめようとするけれど、


「昔は、わしもおもちゃを作っておりました。子どもたちが笑顔になるの嬉しいもん。じゃが、見てみ? ゲームやっている子どもたちの目。感情の欠片もない目しちょるよ? それに、「ちっ」とか「くそが」とか汚い言葉使っちょるし…。トナカイさん……そこに夢と希望はあるんかい?」


(上司からのこの質問……無理ゲーじゃね?)


 さん呼びされて委縮するトナカイ。


「うーん……でも、ある…」


「いや、ないね。ないんじゃよ」


「……」


(はい。知ってました)


 トナカイは撒き餌と知りつつ、飛び込み刈り取られた。


「じゃっ、わし。行くわ」


 そう言って、立ち去ろうとするサンタさん。


「えっ、あっ、ちょっと待ってくださいよ」


 トナカイもソリを引きながら、サンタさんを追う。


「もー、どこに行くつもりなんですか?」


 サンタさんに追いついたトナカイはサンタさんの隣を歩く。


「ちょっくら、あの玉を持ってくるんじゃ」


「あの玉?」


 トナカイは玉をイメージする。


(サッカーボール? 野球? バスケ? バレー? テニス…あっ、スーパーボール? あーでも、水晶玉とか……あっ、もしかして…)


「願いを叶える?」


「色はオレンジじゃないぞ? あと、金色でも銀色でも、くす玉でもないからな?」


 サンタさんは倉庫に入り、棚の間を歩いて行く。

 倉庫の中にはライトも点いているのに、奥へ行けば奥へ行くほど暗くなっていき、トナカイは周りを見渡しながら、不安そうな顔をする。


「よし…あった」


 サンタさんとトナカイが歩いて行くと、少し明るい場所に着いた。

トナカイが覗き込むと、棚には景色が映った玉がたくさんあった。


「スノードーム?」


 トナカイが尋ねる。


「もう、ボケたのか? 転生玉じゃよ」


「転生玉?」


 トナカイは頭を働かせるけれど、全然思い付かない。


(うん、絶対ボクが知らないやつだ)


「箱を用意せい」


(あっ、これ説明してくれないやつ?)


「サンタさん…転生玉って…」


「異世界に派遣する玉じゃよ」


 そう言って、サンタさんは転生玉を手に取る。

 玉の中にはスノードラゴンやイエティなどが映っていた。


「ふっ。人が創ったファンタジーじゃのうて、神が創りしファンタジーへ転生させてやるんじゃ。だって、今日は…」


 サンタさんがトナカイから貰った箱に転生玉を詰め込む。


「救世主が生まれる日なのだから」

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サンタはパシリじゃありません。グレたサンタはプレゼントを運ぶんじゃなくて、お主らを運んでやる!? 西東友一 @sanadayoshitune

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