王国の戦争
第9話 イヴァンの副官
― フローレ王国 空港 ―
「お待ちしておりました。イヴァン様」
そうピシッと敬礼をしながら言ったのは、僕の副官のウィステリアだ。黒色の瞳に紫色の髪色の少女で副官としての才能は一番と言っていい。そんな彼女とは大戦時からの古い仲だ。そして彼女も魔法使いであった。
「さあ、帰ろう。宮廷魔法使いの塔へ。もとい隔離塔へ」
「ふふふ、確かにあそこは隔離塔ですね」
ウィステリアが笑いながらそう言った。形だけの宮廷魔法使いの塔も当然のようにハリボテだ。空港から徒歩数分といういい立地なことを除くと何もいいことはない。隙間だらけで雨漏りもするし、夏は暑くて冬は寒い。まさに、最悪の部屋だ。まともな不動産屋なら絶対オススメしないだろう。
「外は相変わらずな感じで僕の監視役が見回っているな。逃げも隠れもしないのに」
「イヴァン様はいつも強気ですね。さっきの発言といい。対戦時でしたら一発アウトでしたよ」
そう辺を警戒しながらウィステリアは言った。
「今の王にそんな権力はないからねー。ウィステリアもはっきり言えばいいじゃないか。スッキリするぞ」
「そうですか」とウィステリアは呆れるように言った。
塔の中は暗い。明かりを灯してもかろうじて見えるくらいだ。
「ウィステリア後で僕の部屋に来てくれ大事な話がある」
僕がそう階段を登りながらそう言った。僕の言葉にウィステリアは下を向いて押し黙ってしまった。
「僕の部屋が嫌だったらウィステリアの部屋でもいいよ」
もしかして僕の部屋に来るのが嫌だったのかなとそう僕はウィステリアに言った。でも、ウィステリアは首を振って否定した。
「そ、そんなことないです。支度してから参りますので失礼します!」
そう言ってウィステリアは自分の部屋に戻った。
「イヴァン様は乙女心というものを少しは学んだほうがいいですよ。あんな言い方ではいけません」
ウィステリアが部屋に入った後、エリカは僕に怒った。
「はいはい。わかりました。努力しますよ」
「イヴァン様、努力する気ないですね」
エリカのその言葉に僕は黙る。
「はあ、まあいいです。イヴァン様。私が教えてあげましょう」
作った僕が言うのもあれだけど本当に人間らしいオートマタだ。
イヴァンと別れたあとウィステリアは自分の部屋に考え混んでいた。
「大事な話って何?」
ウィステリアはイヴァンのいった言葉にひかかっていた。
「も、もしかして告白でもされるの?」
「でもでもでも」とウィステリアの頭の中は混乱していた。
「イヴァンくんが告白してくれるなら私、速攻でオケー出しちゃうな~」
ウィステリアはイヴァンのことが好きだった。きっかけは戦時中の夏のある日だった。イヴァンとウィステリアが出会ったその日から…………。
夏と言ってもフローレ王国ではそんなに気温は高くならない。春に雪解け水でいっぱいだった川も落ち着きを取り戻している。
そんな中、川の向こう側に帝国、こちら側にフローレが陣取っている。両者は膠着状態が続いている。それが夏になり川の水位が下がったことによって再び戦いが始まろうとしていた。
「ウィステリア。早くしなよ。点呼に遅れるよー」
そう私に呼びかけるのはアドネという同期の魔法使いだ。アドネはウィステリアの親友で戦友だ。アドネと私は二人揃って塹壕を進んでいく。
点呼を取り終えると作戦内容が伝えられる。伝えられた作戦の内容はウィステリアの所属する部隊を囮にして主攻を突入させるというものだった。
「結構優秀な私達が囮に使われるってことはその主攻を務めるやつはそんなにすごいやつなのか?」
そうアドネが言った。確かに主攻を任されるということは優秀なのだろう。私は作戦資料を見て読み上げた。
「イヴァン・ナサニエル・リフリージェ」
「氷原の銀狐か」
敵も味方も全滅した中、一人氷原の中に立っていたことからつけられたその名前は敵も味方も震え上がる。
「ネームドか。私達の出番はなさそうだね」
そう呑気にアドネは言った。私も「そうだね」といった。
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