第7話 イヴァンの嘘
洞窟を離れた私は森の中を駆け抜けていく。涙を流しながら。友達になれると思ったのに。敵同士でも仲良くできると思ったのに。結局は敵同士。幼稚な幻想を抱いた私が馬鹿みたいだ。
ゴテっと私は木の根に引っかかってこけた。寒さで痛みは感じなかった。私はさっさと起き上がる。起き上がってあたりを見回して見ると大きな熊がいた。
「うそ」
私は命の危機を感じた。魔法を何度か放ったがびくともしない。あのデカい熊には勝てない。気づいたら、私は崖に追い詰められていた。私はしゃがんで泣いていた。
食べられる! そう思って目を閉じるも中々その時がやってこない。そっと目を開けてみると熊が凍っていた。そう、凍っていた。
「イヴァン! どうしてここに?」
「ステラが走って行くからだ」
「だって、だって、イヴァンが収容所に送るって言ったんだもん」
私の言葉はイヴァンは頭をかきながらこう言った。
「さっきのあれは嘘だ。だからもう心配しなくていい。もうあんなことは言わない。だからもう、泣かないで」
イヴァンの一言に私は笑った。イヴァンも仲良くしたいと思ってくれたことが嬉しい。
「走るよ」
唐突にイヴァンはそう言い出した。
「え、何で?」
「もうすぐ溶ける」
私はハッとして凍った熊を見る。見ると氷が溶けかかっている。私とイヴァンは凍った熊の横を通っていった。私達があり程度離れたところまで行くと氷が溶けて熊がまた動き出した。
熊はすぐさま私達に襲いかかってくる。イヴァンが氷の魔法で攻撃する。いくつかの氷塊が飛んでいき熊に刺さる。私の魔法で援護する。私の魔法は落とし穴。熊がすっぽり入る穴ができる。熊はすっぽりとはまり、身動きが取れなくなった。
「イヴァン後はよろしく」
私は魔力が切れたのでイヴァンにとどめを刺すことを任せた。イヴァンは氷の槍を作り、熊にとどめを刺す。
「イヴァンありがとう」
私はイヴァンに抱き着いた。イヴァンはそのまま何も抵抗しなかった。運動をしたからか、なぜか暑かった。
— 現在、アネンヘーゲルの空港 —
「こんなところかな。僕とステラの出会いは」
「はー。そうだったんですか」
エリカは僕の話を興味なさそうに答えた。
「聞いて来たのはエリカの方だろう」
「意外とベタな話だったもので」
まったくエリカは……………。それにしても本当にあの時が初めてだったかな。魔法使いになってからまともに話したのは。
「そう言えばクマを倒した後、どうなったのですか?」
「あの後は大きな音に連邦共和国の兵士が駆け付けたんだ」
「それでイヴァン様は捕まって、好き放題されたと」
エリカは冗談めかしてそう言った。まったく面白くもない冗談だ。
「そんなわけないだろう。ステラが取り繕ってくれたんだ」
そんな話をエリカとしているとある群衆が飛行機から降りてくるのが見えた。その中の一人に見覚えがあった。
「イヴァン様、先ほどからあちらの人を睨んでいますがどうかしたのですか?」
「ちょっと因縁があってね」
「ちょっとですか? 物凄い殺気ですが」とエリカは口を押さえながら言った。
「それで、あの方はどなたなのでしょう?」
あの男、あいつはレクシウス。帝国唯一の魔法使いだ。二つ名は『帝国の冷酷』。
「では、なんでそこまで恨んでいるのですか?」
「あいつは僕の家族を殺したんだ」
あいつは僕が心中から恨む唯一の魔法使いだ。あいつほど、腹立たしい人間はいない。
その飛行機から降りてきた群衆はどうやら、帝国の使節団らしい。その使節団とすれ違った。僕に気づいたのかレクシウスがこっちを見た。それと同時に炎が飛んできた。すかさず氷の盾で防ぐ。
「なんのつもりだ? レクシウス」
僕は強めの口調で言った。帝国の使節団はワタワタして焦っている。
「なんでって、そんなのただの戯れだよ」
僕はこの思考回路がおかしい男の相変わらずな返答に嫌気をさす。
「なんでこんな所にいるんだ?」
「見てわかんないのか? 使節団と旅行だよ」
相変わらずな返答にただただ呆れるばかりである。
「イヴァン、勝負をしないか?」
僕はその言葉を無視してさっさと飛行機に向かう。
「おっと、逃げるのか?」
レクシウスは僕の前に立って進路をふさいだ。それでも、僕とエリカはそれを避けて進もうとする。
「姉の形見はまだ持っているのか?」
その言葉に僕はカチンときた。
「エリカは離れていろ」
「ですがイヴァン様」
僕は「いいから」とエリカに荷物を預けて言う。レクシウスはただにやけて待っているだけだった。
一旦距離を取った後、僕は氷塊をレクシウスにぶつける。レクシウスは炎で溶かして防ぐ。さらにレクシウスが火力上げた炎を僕に向けてくる。それを氷の壁でかわし、身体強化でレクシウスに迫る。
僕は氷で作ったナイフでレクシウスに切りかかる。レクシウスは近接戦闘に弱い。僕はかわしてばかりいるレクシウスの焦った顔を見る。しばらく近接戦闘が続くが、レクシウスが避けてばかりで一向に勝負がつかない。その時、エリカの傍にまで来ていることに気づいた。
僕はエリカが巻き込まれないように距離を取る。レクシウスは困惑したような様子だったが、すぐにエリカに気づいてにやける。
「そういうことか」
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