第6話 過去の話
そこにいた少年いや男の子は狐の面を付けていた。歳は私より二つ下くらい。私より小さいのにしっかりしている。
「どうしてこんな所にいるのさ?」
「そっちが言うのか? お互い様だよ。こんな山奥でいったい何をしているんだ?」
男の子は何かを疑うような目でこちらを見ている。
「た、ただ道に迷っただけだから。そっちこそ何をそんなにも疑うのさ」
「ここが戦場だからだ」
戦場って言っても子供だろう? なんでこんな子供がいるんだ? まるで私みたいだ。もしかして、フローレの魔法使い! なんでこんなところに?
よく見ればよく見るほどにフローレの魔法使いの特徴と一致する。狐の面、間違いない『氷原の銀狐』だ。どうする? 敵として倒すのか? 無防備だが。それは卑怯じゃないのか? 幸い、私が連邦共和国の魔法使いだとばれていない。殺すなら今の内だ。
「はい。これ」
その言葉と共に渡されたのはスープだった。
「これは?」
渡されたスープに私の殺意は収まった。さすがに物を貰っておいてその恩を仇で返すようなことはしない。でもまた会った時は殺し合いだ。私は貰ったスープを飲む。冷え切った体には嬉しい温かさだった。……………味は最悪だったが。
うちの戦闘糧食の方が美味しいな、これは。私がスープを飲んでいる間、沈黙だけがこの空間を支配した。
「なんで森の中に?」
沈黙が気まずかったのか男の子は質問をしてきた。私はフローレの兵士を殺しにとは言えないので「そんなの何でもいいじゃないか」と言った。
「今度は私が質問していいかい? なぜ、仮面をつけているのさ?」
「義務だ」
即答だった。沈黙を解消しようと質問したのに何という応答だ。
「じゃあ、なぜ狐の面なんだい?」
「そんなの、どうだっていいだろう」
男の子のぶっきらぼうな言い方に少しいや、大分イラっときた。
「どうしてさ? 理由くらいあるだろう」
私は立ち上がってそう言った。でも、その男の子は一切動じることなく、ただ黙っていた。
「姉が好きだったからだ」
私が黙った後、恥ずかしいのか少し経ってから男の子はボソッと唱えるように喋った。
「君は人と喋るのは苦手なのかい?」
私はさっきからぶっきらぼうに質問に答える男の子にそのような質問をする。
「一人でいることが多いから」
それでも、男の子はぶっきらぼうに答えた。
「なんでさ? 君みたいな英雄は称えたれているだろう」
私の言葉に何か取っ掛かり覚えたのか、その男の子は少し考え込んだ。しばらくして男の子が動き出したかと思えばその場から消えた。
いや、消えていない。男の子は私の横にあの一瞬で移動してきたのだ。私の右頬に冷たい銃の感触が伝わる。
「今度はこっちの質問だ。君は連邦共和国の魔女。違うか?」
何故か私がフローレの人間じゃないことがバレた。
「じゃあ、私の質問なんだけど。なぜそう思うんだい?」
私は怯えながらもあくまで冷静に答えた。
「フローレの英雄は褒められない。これはフローレ王国では当たり前の話だ。それを知らないとなると………」
「もういい。わかった。認めよう。私はゴトーシュミット連邦共和国所属魔法使いさ」
覚悟して答えたものの私の頭には風穴が開くことはなかった。男の子は銃を置いてもとの位置に戻った。
「なぜ撃たなかったんだい? 私は敵国の魔女だよ」
私は何故殺されなかったのか疑問に思いそう聞いた。すると男の子は少し考え込んだあとこう答えた。
「お前に敵意がないからだ」
「そ、そうなんだ」
私は初めて会ったときのことを思いながら苦笑した。あのまま殺しにかかっていたら殺し返されただろう。
「というわけで。お互いにさ、正体を明かしたわけだし、仕切り直しで自己紹介をしよう」
私は殺気だったこの空気を変えようとする。
「まずは私から。私の名前はステラ。君の名前は?」
「僕はイヴァンだ」
「よろしくね。イヴァン。私達は敵同士だけど仲良くやろう」
私がそう言うとイヴァンは「さあ、どうだか」と言った。私はこうしてイヴァンと知り合いになった。
私は当初の目的も忘れてイヴァンと話し込んでいた。イヴァンもぶっきらぼうな言い方から少しづつ変わっていった。それが面白かったので私は笑いを漏らしてしまった。
「何を笑っているんだ?」
「人って変わるものだなって思って」
「どういう意味だ。それは」
私の答えにイヴァンはまたもとのぶっきらぼうな感じに戻った。
楽しい一時を過ごしている中、私はあることを思い出した。
「私、迷子なんだった!!」
どうやって帰るかと悩んでいるとき、イヴァンがこう提案した。
「フローレの捕虜収容所になら送ってやろうか?」
「ひどいなー。全く」
「冗談ではないぞ。僕はもともとそのつもりだった」
そのイヴァンの一言に状況を理解する。私はこのままだと収容所送りになっちゃう。私は洞窟から飛び出していった。引き留める言葉も聞かずに私は走る。
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