第5話 大統領の娘

 『大統領の娘』その肩書で何度妬まれてきたことか。でも、私はその肩書を捨てようと思わない。妬む奴らはその肩書にふさわしいい実力でねじ伏せた。そして今ではこの国の代表魔法使いだ。思い通りにならないものなんてない。そう思っていたのに…………。


 私はイヴァンが待っている部屋のドアノブを持つが、少し考えこんでしまう。でも、考えても仕方ない。私はさっさとドアを開ける。


「な、なんで!?」


 ドアを開けた先には信じられない光景が広がっていた。






— 大統領府の中の一室 —


 僕はエリカとステラに会うために案内された部屋へ行く。部屋は相変わらず綺麗で整えられている。エリカは僕の横に立って準備万端だ。何時でもステラが来てもいいように待っていたら、ドアが開いた。しかし、ドアから入って来たのは………


「大統領」


 この国では誰もが知る存在である。僕は椅子から立ち上がろうするが大統領は手でそれを制した。


「大丈夫だ。立たなくて結構」


 大統領は僕の目の前に座って、握手を求めてきた。「よろしく」と大統領は言って握手をした。


「こちらこそよろしくお願いします。大統領」


 予定が変更になったのか?と考えていると大統領が口を開いた。


「君は冷静だね」


「どういうことですか?」


 僕がそう聞き返すと大統領は「普通はもっと取り乱すものさ」と言う。


「さすが『氷原の銀狐』だ」


 僕はその名前を聞いた時、始めて動揺した。


「ほめた方が動揺するのかい?」


「大統領からその名前を聞くとは思わなかったので」


 僕はフローレ王国の決して称えられない英雄だ。ただ敵国だけに恨まれるだけ損な役回りだ。だから、こんな敵国で受け入れられている方がおかしいのだ。


「我々は君を許したのさ。君は国の命令に従って生きていただけ。そうだろう?」


「それは間違いではないですが」


 僕の答えに大統領は「まだ、納得がいかないのかい?」とさらに説明をした。「まあいいと」行った後、大統領はこう聞いてきた。


「結局、亡命はするのかい?」


 最後の質問とばかりに大統領は聞いてきたこの二日間、悩むまでもなく答えは決まっていた。


「亡命はしません」


「そうかい。中々頑固だね。まあ、今はその答えでいいさ。私はその答えが変わることを願っているよ」


 その質問を終えた最後にこう一言つけたした。


「娘によろしく。できるだけ援助をしたと伝えておいてくれ」


 大統領はドアに向かって歩いて行くが、ドアを開ける前に開いた。


「なんで、お父さんがいるの?」


 ドアを開けたのはステラだった。


「ステラか。頑張ってこい。私もできるだけのことはした」


 そう言われたステラは状況が吞み込めてないようでただ呆然としていた。しばらく経ってから顔を赤くしてこちらに向かってきた。


「何を言われたの?」


 鬼気迫る顔でそういわれた僕はただ呆然としてしまった。言われたこととと言えば亡命のことでステラが気にするようなことは何も言われていないはずだ。


「まあ、いいさ。いつも通り、いつも通りにやればいいから」


「いつも通り?」


 僕はステラの意味の文脈の繋がりが感じられない言葉に聞き返す。


「いや、君には関係ない」

 

 ステラは仕切り直しとばかりに咳ばらいをした。そして僕の向かいに立ってこう言った。


亡命をしてくれ、イヴァン君」


 ステラはさっきとは真逆に亡命の要求をしてきた。僕の決めたことは変わらないと彼女の要求を突っぱねた。するとステラは顔を赤くなったがそれ以外は変わらずに話をして時間が過ぎていった。





 待ち合わせの部屋に行くとお父さんがいた。それで予定が狂ったみたいだ。お父さんがイヴァンに何を言ったのか気になって全然集中できなかった。この気持ちは当分の間、心の奥に閉まっていることになりそうだ。


「はー。気づいてくれよ。まったく」


 まったく、イヴァンは鈍いなと私はため息をつく。「また会う日まで」そう約束したものの本当に気持ちが変わるものだろうか? 私の気持ちは……………変わらないだろうな。そう初めて出会ったあの時からあれは今みたいな冬の時期で……………





— 六年前、フローレ王国内、東部戦線のどこか —


 私、ステラは今、森の中で迷っている。今は極寒の冬。雪で足跡が消され、行く道も帰る道もわからない。なぜ、私がこんなところにいるかと言うと、喧嘩をして飛び出してきてしまったのである。


 『大統領の娘』そうやって妬まれるのは嫌だ。見返してやると思って戦場に来たものの大したことができずにバカにされ、「大戦果をあげるんだから」と飛び出してきてしまった。


 どうしよう? このままだと死んでしまうのではないか? その疑問が頭の中ではんすうする。


 ふと、目の前を見ると洞窟があった。この中に入れば死なないかもしれない。私は洞窟の中に入っていった。


 洞窟の中は暖かく、明るかった。まるで誰かが焚火をしているようだ……………というかしている。


「誰?」


 私は首をかしげてそこにいる誰かに声をかける。

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