第4話 フローレの王族

— 翌日、大統領の執務室 —


 アネンヘーゲル初代大統領から十二代目の大統領である現大統領のナパールはとある事で悩んでいた。


「何を悩んでいるのですか? 大統領」


 大統領の秘書も悩んでいるのを見て声をかけるほどだ。


「とても重要なことだ」


「フローレ王国の処置のことですか?」


「まあ、そんなところだ」


 秘書に言った事はある意味では間違ってはいないが、ナパールが悩んでいるのは娘の恋のことである。昨日は余計なお節介を焼いたようで電話を切られてしまった。だが、娘のために父親として援助をするべきか? どうしたものか。ナパールが悩んでいるととある考えが浮かんだ。


「明日の予定は空いているか?」







— ホテル、イヴァンの部屋 —


 ホテルの部屋も豪華だった。一晩明かした感想だが、ベットは柔らかくてとても心地が良かった。フローレ王国のものとは大違いだ。


「もてなされていますね」


 そうエリカは言うが、僕には早く亡命しろと言われているような気がしてならない。ずっと圧迫感がある感じで落ち着かない。


「いいのですか? ステラさんの申し出をずっと断っていますが」


「エリカ、僕はあの国を見捨てる訳にはいかないんだ。がいた国は」


 「本当に家族思いですね」とエリカは呆れる。さらにエリカは「そこがあなたのいいところであり悪いところです」と続けた。


「エリカはどう思っているんだ?」 


「何のことですか?」


 エリカは首をかしげて困ったポーズをした。エリカは少し察しが悪いというか抜けているというか、どこか人間のことがわかってないことがある。


「僕が亡命するか否かの話だ」


「それでしたか」


 エリカはポンと手をたたき納得した。


「それなら、私はあなたについていくまでです」


「つまり、めんどくさいから僕が決めろということか?」


 エリカは「そういうことですー」と流した。まあ、いいけど。


 チリリンと呼び出しのベルが鳴る。エリカがすかさず反応し、対応をした。


「王子からの呼び出しのようです」


「要件は?」


「国王様の事についてです」


 僕は早急に支度をした。着替えて狐の仮面をつける。仮面をつけることはフローレ王国の魔法使いに義務づけられていることだ。国王が言うには魔法使いは素顔を人にさらしてはいけないらしい。仮面は必ずと言っていいほど動物の意匠が施されている。僕はもうすっかり仮面をつけることが癖になってしまった。






— ホテル、王子の部屋 —


「どうしましたか? 王子」


 プロイテウス・モーレイ。フローレ王国の第一王子。つまり、次の王様だ。国の状況を考えるとかわいそうで仕方ない。だが、なぜ僕を呼んだのかがわからない。王族は基本的には魔法使いなんかに用はないのだから。


「イヴァン、今回は君に協力して欲しいんだ」


「協力ですか?」


「父上は戦争をまたするつもりだ。それを止めたいんだ」


 確かにあの国王なら今の国の状況を鑑みらずに戦争を始めそうだ。国の荒廃を止めるために国王の暴走を止めるのは妥当だ。


「仮に協力するとして、僕は何をすればいいのでしょうか?」


 国王の暴走を止めるための一番の方法は……………


「反乱だ。君には反乱時の味方になってほしい。君はとても強力だからね」


 やっぱり反乱か。権力の持っている者を止めるにはそれ以上の権力を持つか奪うしか方法はない。王子は後者を選ぶしか方法が無い。


「なら、その強大な力を何に使えばよろしいのでしょうか?」


「軍との戦いだ」


 「軍は父上の味方をするだろう」と王子は言った。その言葉を聞いたときに僕はその反乱に強力する気はなくなった。


「お断りします」


「な、なぜだ? 魔法使いの差別もなくなるんだぞ」


 僕は返事もしないままドアへと向かう。王子は立ち尽くしたままただ見ている。王子は引き留めようと僕に声をかけるが関係ない。僕はさっさと部屋を出て行った。




 部屋を出てエリカは僕に「よろしいのですか?」と聞いてきた。


「別にいいさ。今の王族にそんな権力はない。このまま行けばこの国は崩壊するだろう」


「ならばなぜ、断ったのですか? このフローレを愛しているあなた様が」


からさ」


 僕はフローレ王国が戦火に飲み込まれるのはもうこりごりなんだ。火の手が上がる王城、街の中、無力に歩き回った僕の気持ちはとっくに決まっている。それに………僕は国と戦えない。


「あの契約ですか?」


 僕は国に逆らわないように国との契約をかわしている。だから、反乱を起こそうものならたちまち僕は死んでしまうだろう。


「僕の家族が愛したこの国と運命をともにするなら、それでいいと思っている」


「そうですか。私はもう少しイヴァン様あなたと生きてたいと思いましたけどね」


 僕はこのエリカの言葉に少し決意が揺らいだ。

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