第3話 フローレ王国の現状
「さて、パイクリートを使うほど困窮しているフローレ王国の現状だが、私が思うより酷いようだがどうかね?」
「ステラの言うとおりとても酷い状況さ」
フローレ王国は先の戦争で資源地帯を両国に持っていかれたため、深刻な資材不足が続いていて復興もままならない。さらに賠償金を取られたため国庫が空になった。その貨幣不足を補うために大量に金を刷ったので金の価値が著しく落ち、経済が崩壊している。そんな状況なのにこの国の国王ときたらまだ「フローレ王国の権利を取り戻す」とか言ってまた、戦争を始めようとしている。
「国に帰ったら君は不敬罪で投獄だね」
僕の心の声が漏れていたようでステラは僕の言葉にそう反応した。強すぎるためにフローレ王国ではほぼ軟禁生活なのに……………投獄なんて…………
「今更さ」
「なぜ君はこちらに亡命しないんだい? フローレ王国よりもずっと待遇がいいだろう」
「確かにフローレ王国は待遇が悪いし、軟禁生活だし、飯はまずい。でも、それでも、僕の産まれた、僕の家族がいる国だ」
ぼくの返答にステラは残念そうに頷いた。
「そうかい。次は君からいい返答を引き出そう」
「何度やっても変わらないさ」
壁にかかっている金色に装飾された振り子時計を見ると夜7時を指している。もうそろそろ大統領と国王の会談が終わるころだ。
「僕は今頃、不利な条約を飲まされて国王が愚痴を言っているのが目に浮ぶよ」
「そんなに穏やかだといいけどね」
ステラは頬に手をあててそう言った。
「じゃあ、また明後日」
「明後日こそ亡命してよね」
僕はステラの言葉を聞く前に出て行ってしまった。ステラは「まったく、もう」と言った困り顔でイヴァンの出ていった扉をずっと見ていた。
— ゴトーシュミット連邦共和国、大統領府、議会室 —
「それは断じて認めん」
静かな会議室に大きな怒号が響いた。声の主は国王だ。王政廃止などの王の利益がなくなるような要求にしびれを切らしていた中、魔法使いの権利に差し掛かった時、国王が怒鳴ったのだ。国王がなぜこんなにも魔法使いを嫌っているのかというとただ単純に仲間が欲しいだけである。王政廃止は戦争に負けた時点で決まったと言ってもいい。だから国王は一緒に豚箱の飯を食らう仲間が欲しいのだ。
「しかしですね。こちらとしてはこの要求を飲まないと領土の返還はできかねます」
「もういい。この話はなかったことにする!」
そう国王は吐き捨てると議会室から出て行ってしまった。今回の会議の形式は晩餐会なのに国王は全く手をつけなかった。
「全く、あの国王は自分のことしか考えていないようだ」
ゴトーシュミット連邦共和国の大統領のナパールは悪態をつく。
「あれだから、戦争に負けるんだよ」
食事をしながら貫禄のある態度でナパールは言う。そしてさらにローストビーフを一切れ頬張って一言。
「ステラの方は上手くやっているかな」
『氷原の銀狐』、あの魔法使いをこっちに迎え入れることができたら帝国よりももっと有利になる。
「きっと大丈夫ですよ」
— 代表魔法使いの邸宅 —
ステラは帽子とローブをかけた後、ベットに寝転んだ。イヴァンを亡命させることができなかったため、落ち込んでいる。
「イヴァン君は本当に頑固なんだから。かっこよく決めちゃってー。まあ、そういうところは嫌いじゃないけど……………」
ステラの最後の方の言葉はゴニョニョとよく聞こえなかった。
「明日こそイヴァンに『亡命させてください』って言わしてやる」
そのためには練習した方がいいのか? どうすればイヴァンが亡命するか考えないと。
「イヴァン君、今日こそは亡命してくれるかい?」
練習としてやってみたが全然ダメだ。これじゃあいつも通りすぎる。何か特別な何かをしないと………。イヴァンがこっちに来てくれない。イヴァンがこっちに来てくれないと………けっ。
その時、突然電話のベルが鳴った。まだ顔が赤いステラは慌ててベットから離れ、電話のもとへ行く。
「はい。もしもし」
「ステラか。ナパールだ」
「大統領。なぜこんな時間に?」
大統領はそんなのわかりきっているとでも言いたそうにこう言った。
「なに、娘の恋路は父親として気になるだろう。それでイヴァン君は何と言ったんだい?」
「な、お父さんには関係のないことです!」
ステラは慌てて電話を切ってしまった。
「こ、恋っですって! そんな……………」
恋だ。この気持ちは恋なのだが……………。明日こそこの気持ちを伝えてもいいかもしれない。そうしたら、イヴァンはなんて答えるだろうか?
「イヴァン君、ずっと君のことが好きでした。私と付き合ってください」
一度見たドラマの真似をしたみたものの……………むっちゃ、恥ずかしい。受け売りでやるのは良くない。
「うん、私はいつも通りがいいかな」
いつも通りに接するそう決めたのだが、予想外のことが起きるのがこの世の常。ステラは明日、この予想外のことで悶え苦しむことになった。
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