違法経済特区編 第七話『ブルーオーシャン』
四、どうやら既に四階まで上がっていたらしい。
ゆっくりと息を整えながら、久間は状況を整理した。
まさか初戦の相手が知り合いで、しかも躊躇いなく攻撃してくるタイプの人間だとは夢にも思っていなかった。
「あの店長……俺のこと本気で狙ってやがった。ったく、容赦ねぇな……いくら怪我とかしないからって、真顔で観葉植物投げつけるかよ。しかもあの口ぶり的に、俺のこと破産させる気満々じゃねぇか」
久間は既に自身の
おそらく、自身が頭の中で思い描いた武器や道具を自在に生成することのできる力だ。久間は先ほど、発煙筒が欲しいと心の中で念じた。すると本当に、手の中にイメージした通りの発煙筒が出現したのだ。
どうやらこの商業取引では、この
「くそっ! あのロバ耳、マジでふざけんなよな。めちゃくちゃ重要じゃねぇか」
久間はいま一度、視界に映る個人資産の項目をチェックする。
この
「中二病全開のルビとか振りやがって。そういうのは中坊の頃に卒業したんだよ」
その時、久間はあることに気づいた。視界に表示されている総資産の額が、前よりも減っていたのだ。間違いなく、最初は五千万あったはずだ。きりのいい数字だったため、よく覚えている。
「ど、どういうことだよ……これ」
ミダスの説明では、総資本が損失するのは投資された場合かダメージを受けた際のどちらかである。しかし、久間は相手に触れられてもいなければ、怪我を負わされてもいない。
「まさか、転がった時にダメージ判定されたわけじゃねぇよな」
だとしたら、これはとんでもないクソゲーである。
「いや、待てよ。俺の
久間はもう一度、拳銃が欲しいと頭の中で願った。すると再び、目の前に先ほどと全く同じタイプの拳銃が出現し、同時に総資本の額が僅かに減少した。
「あー、なるほど。
久間はようやく、自身の
その名の通り、外部と取引を行うことのできる
「ははっ、だとしたら、少し勝機があるかもしれねぇな」
この
今度は逆に、加村の
加村は銃弾を空中で止めたり、観葉植物を触れれことなく投げつけてきた。ストレートに考えれば、念動力による操作系スキル。例えば、テレキネシスのようなものだと予想できる。
「やばいな。それじゃあ不意打ち以外で損失を狙うのはほぼ不可能だ」
バリアや無重力にする資産とも考えられたが、それだと観葉植物を放り投げた方法がわからない。だが仮にテレキネシスだと仮定した場合、勝利は絶望的である。武器の持ち込みが禁止されている商業取引で、相手はその場にある物を飛び道具へと変えてしまう。初戦からはあまり当たりたくないタイプの相手だ。
しかし、それだとどうして久間に
「さて、ここにいるのも時間の問題か。多分、店長は一階ずつチェックしながら上がってくるはず。今は少しでも時間を稼ぐために、一番上にまで避難しておくべきだろう」
久間は思考を声に出しながら模索する。何か使える物はないかと、一応周囲にも目を配っておいた。
だが、あるのは棚や机ばかりだった。ドラマなどで見る会社のオフィスがそのまま具象化されており、身を隠せそうな場所はあっても、武器になりそうなものはなかった。
唯一興味を惹かれたのは、端に設置してあるウォーターサーバーだった。
とりあえず、水分の確保だけはできる。
「うーん。飲んでいい水なんだよな、これ」
訝しげな表情で見つめる久間。まだこの区域を完全に信用できておらず、摂取すべきなのかどうかを決めかねていた。
自身の
仕方なく、久間はウォーターサーバーの水を備え付けの紙コップに注いだ。走り疲れ、喉がカラカラだった体には、これ以上ないご褒美だった。
「これで腹でも下したら、責任取ってもらうからな。あのロバ耳クソ女」
久間がコップの水を飲み干した、その時だった。階段の方から、ガタガタと何かが倒れる音が響き渡った。
大きな唾をゴクリと飲み込み、無意識のうちに拳銃を握りしめていた。
どうやら、下の階で加村が棚や机を強引に倒し、久間が隠れていないか探しているらしい。
久間はほくそ笑んだ。
そして、また何かを外部から
久間と入れ替わる形で、加村が四階へと足を踏み入れる。
キョロキョロとオフィスの中を見回しながら、久間が隠れていそうな場所を徹底的に探した。彼にとって、物を壊したり退かしたりすることは、非常に簡単なことだった。
「はぁ、そろそろかくれんぼは終わりにしないか? 鬼も交代してもらわないとつまらないよ。ずっと押し付けるのはいじめなんじゃないのかい?」
余裕のある茶化した口調で、加村は少しずつ遮蔽物をフロアの端へと退かした。
「……ん?」
その時、加村は足元に落ちているある物に気づいた。
それは、久間が先程まで使っていた拳銃だった。加村は拳銃を拾い上げ、中にまだ一発だけ弾が装填されていることを確認すると、思わず頬を緩めた。
「ダメじゃないか、こんなところに落し物をしちゃ……」
加村の視線が、すぐそばにあるロッカーへと向けられる。
「こんな逃げ場のないところに隠れるなんて、君はもう少し利口だと思っていたんだがなぁ……残念だよ」
刹那。放たれた一発の銃弾により、ロッカーに風穴が開けられた。
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