第4話 ケロ目線

僕はケロ。ただのカエル・・・ではない。


ぬいぐるみのカエルだ。


僕は今、僕を何十年も愛し続けてきた男のリュックの中にいる。


「は、はぁ。お、俺がんばるから、ね?ケロ、そこで見てて、ね。」


そう告げられ、お役御免となった僕は今、リュックからこの男がショッピングする様子を眺めている。


なぜか、かごを取らず、両手いっぱいに商品を抱える姿は毎度恒例だ。


いつも通り、カップ麺に手を伸ばし、保存食に手を伸ばし、菓子類に手を伸ばし・・・そして最後にえ〇ちな雑誌を遠慮がちに取っていく。


もはやいつも通りとなったこの光景は、昔を思えばずいぶんと平和になったものだなぁと、しみじみ思わせる。


「ど~ぞ~。お預かりしま~す。うぇ」


商品を選び、レジに運んでいくと・・・


うん、店員さん、ごめん。


あまりの臭さに店員が鼻をつまむのも、恒例だ。


しかも今回は初見の店員さんみたいだから、においをもろに受けたに違いない。


会計も順調に進み、このまま終わるかと安堵していた僕に、突然光が舞い込む。


ん?何用かねと、あの男を見上げるが、またすぐに口を閉じられてしまった。


ああ。


さては財布を忘れたな?


本当にもう、この男はどこまでもポンコツだな。


っっと!


リュックを放り投げたら痛いじゃないか、もう、全く。


でも、こんな男だけど、いや、こんな男だからこそ、一緒にいて幸せなのかもしれないな。



・・・



ん?あ!おい!


この店員、勝手にリュックを開けたぞ!


ってうぉぉあ!


持ち上げるなおい!


くすぐったいじゃないか!全く!


・・・


はぁ、よかった。


今こいつ、俺の背中を見ていたようだが・・・。


ふ、どうだ自慢のご主人様2人だ。


・・・今はもう、この背中に名前を刻んでくれたもう一人は、いないけどね。


・・・はぁ。早く戻ってこないかな。


ピンポンピンポンピンポ~ン♪


お!帰ってきた!


「強盗だ!動くな!」


・・・違うし。


・・・しかも強盗って。


やばい。やばいやばい。


このままじゃあ、あの男が強盗に鉢合わせてしまう!


んくっそ!


僕がどうにかしなきゃ!いけないのに!


・・・だめだ。そうだよね。


だって僕ぬいぐるみだもん。


「この袋に有り金全部詰めろ!」


な、ならばあの男が帰ってくる前に強盗が出ていけば!


は、はやく終われ!!!


・・・


・・・


・・・


あれ、今懐かしい言語で「落ち着け」って・・・?


あれ?


・・・気のせいかな?


・・・


・・・


「じゃあ俺はいくぞ。」


よし、と、とりあえず強盗は去っていくみたいだ。


よかった・・・・。


ピポピポピポピポピポ~ン♪


あ。


「あ、ぇっと!さ、さっきの者、です、が・・・?」


なるほど。最悪のタイミングだ。天才かよ。


「おい!動くな!手をあげろ!」


うう、こうなったらもう無事を祈るしかない!


頼む!


「あ、ぇえと?あ・・・」


「んじゃゴラァ!?」


あーやばいやばい、言葉の不自由さが相手の琴線に触れちゃったよ!


「お、お客様!この方に従ってください!」


そ、そうだ・・!ナイス店員!


っておい!こそこそ逃げるな!


うわぁこれで一対一だぁ。


くぅ。僕にはもう祈ることしか・・・っ!


ぬぬ、せめて警察でも来てくれぇぇ!!!


「よし、いいぞ。・・・おい、金、はねぇのか?あ?」


今度は金の要求だ!穏便にな?


・・・どうでもいいけど、なんか強盗ただたどしくなったな。


「ひぇぇああああ、そ、そこ、でぅす。はい!」


「見せ、てもらう。」


・・・この感じ。日本語をしゃべるときのあの男に似ているな。


こいつももしかしたら外国人なのか?


と、そんなことを考えていたその時、急に伸びてきた腕につかまれ、光のもとにさらされる。


あ、そっか。


こいつリュックあさるって言ったっけ。


そりゃあ邪魔な僕は出されるよな。


「そ、それ・・・は!」


・・・あの男と目が合う。


うるんだ瞳で僕を見つめて・・・懇願するようなその姿は、ただただ頼りない。


でも、それでも僕はあの目が好きだと。


そう再認識する。


「なんもねぇじゃねーかよおい!・・・あ?このカエルがどうかしたのか?」


・・・


・・・


ああ。


そうか。


強盗が放った今の言葉は完全に僕たちの母国語だ。


気が動転して日本語で話すことを忘れたのかは知らないが、この言語が、この響きが懐かしいものであることに変わりはない。


そして彼が、ケン・・・・である・・・・ことも。


ああ、なぜ気付かなかった・・・のだろう。


声、包丁を構える動作、背格好・・・気付ける・・・ポイントは・・・たくさんあったと・・・いうのに。


例え何十年経っても忘れては・・・ならなかったのに。


両親と、あの男・・・ロンと・・・ケンを置いて祖国から・・・日本へ来た。


二度と会えないと・・・・・思ってた。


でも・・・来てくれたんだね。


弟を・・・・ロンを・・・助けるために・・・。


親の・・・呪縛から・・・ロンを解放する・・・ために。


だから・・・やめてよ。


ロン。それは・・・ケン・・・なんだ。


ケンは・・・生きてい・・・たんだ。


だから・・・頼むから・・・包丁を向けるのを・・・やめてくれ。


その包丁・・・で切り刻ま・・れるのは・・・僕だけで十分だ・・・よ。


・・・。



・・・。



見てよロン。


ケンの手を・・・ほら、


親指と・・・親指を・・重ねて「生きろ」・・・ってさ。


だから・・・・ね・・・その血で汚れた・・・包丁を自分に・・・・向けるのは・・・・・やめてよ。


あ・・・お願ぃ・・だあkらぁ・・


お・・・ぇがぃdぁら・・・。


ロ・・・・ン・・・・。


生・・・・・・・・き・・・・・・・・て・・・・・・・・。


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