この作品は、冒頭からたくさんの違和感がちりばめられています。字面の下に、絶対に何かが潜んでいると思わせる文章。でもその正体は、読者の想像の域を超えません。多くは語らず、でもシーンとして破綻しない、その匙加減が絶妙です。
そして2話目からは視点が変わり、「冷たい彼」の話。読み進めるうち、「これは冷たい彼氏というより、もはや他人では?」と思うはずです。ではなぜ「他人」ではなく「彼氏」という枠でなければならなかったのか。
最後にはまた、新たな不安の種を残しつつ終わる結末も、ミステリーとして良いですね。真実が明かされたとき、あなたは出口の見えない闇の中にいるでしょう。