冬のあたたかさ
友利日香梨
冬のあたたかさ
まだ12月23日が祝日だった頃。私はその日からクリスマスまで1人暮らしの彼氏の家に泊まることになった。彼氏の家にお泊りといえば、彼女が手料理を振る舞うなんてことが定石なのかもしれない。しかし、私はそんなことはしない。ゆっくりだらだらと過ごしたい。
彼氏の家の最寄り駅で待ち合わせ。まずはレンタルショップに行って適当なDVDを借りる。選択肢はもちろん旧作のみ。お笑いやらアニメやらクリスマスに関係のないものを借りて、今度はスーパーに向かう。酒やつまみ、お菓子、惣菜を
「これ美味しそう」
「こういうの好き」
などど言い合いながらかごに詰め込んでいく。ノリで入れたそれらの合計金額は意外と高く、まあクリスマスだしねと笑い合った。
スーパーの荷物を家に置き、次はケーキ屋へ向かった。予約していたクリスマスケーキを受け取る。これで準備は万端と帰路につく。
テーブルの上に酒やケーキ、その他買ったものをいくつか並べる。借りたDVDを流し、グラスに酒を注ぎ乾杯する。2人きりの宴の始まりである。好きなように食い散らかし、騒ぎ、今日の宴はお開きとなる。
狭いベッドで眠り、朝を迎える。先に起きるのはいつも私だ。用事がない限り、無理に彼氏を起こすことはない。携帯をいじって時間を潰す。
そんなことをしているとお腹が空いてくる。お腹が空くと私は非常に機嫌が悪くなる。それが原因で喧嘩したことが何度もある。彼氏はまだ起きる気配はない。何か食べようと、1人で食べても良さそうなものを探す。
(寒いからあったかいのが良いな)
と思いながら台所周辺を捜索する。赤いきつねを発見した。3つもあるので食べて問題なかろう。
お湯を用意し、容器に注ぐ。台所は寒く、湯気がもくもくと立った。蓋をして部屋に運ぶ。出来上がるまでブランケットに包まりながら携帯をいじる。私は時間を計らない。適当な時間で食べる。彼氏は絶対に計る。
そろそろ良いだろうと蓋をはがすと湯気立ち上がった。眼鏡が曇る。まず汁を飲む。喉から食道、胃へとあたたかいものが流れ込んでいく。
「あーうまい」
と自然に言葉がこぼれる。割り箸で麺をすする。少し長めに置いた面はふにゃっとしていて私好みになっていた。寝息と麺をすする音がワンルームに響き渡る。おあげにかぶりつく。あまじょっぱさがたまらない。無心で食べていると、名前を呼ばれる。彼氏が目覚めた。
「お腹空いちゃったから赤いきつね食べてる」
「それ、お前がお腹空いたように買っといたやつだから自由に食べな」
と言うと彼氏はまた眠りについた。私は再度おあげを口に運んだ。あたたかかった。
冬のあたたかさ 友利日香梨 @hikari_tomori
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