留守電

紅野 小桜

再生

​───────新しいメッセージが 1件 あります。



もしもーし、私だよー。えへへ、ごめんねー急に。びっくりした?んー、特に用って訳じゃないんだけど、ちょっとお話ししたいなーって。ほら、最近寒くなってきたじゃん?私だって人肌恋しくなるんですー。…にゃー、ここで「寂しくなっちゃったー」とか、「君の声が聞きたくなったー」とか言えれば少しは可愛らしく聞こえるのかな?まぁあまり関係ないんだけどさ。そんなキャラじゃないしー?まぁまぁ、どーせ暇してるんでしょ?少しくらい私のひとりごとに付き合ってよ。ね?君に拒否権なんてありませーん。へへ。…さて、私は今どこにいるでしょーか!なーんて。今ねー、海にいるの。去年の夏休み、一緒に行ったでしょ。あそこ。波の音聞こえてるかなー?うるさかったらごめんね。さすがに波の音で私の声が搔き消されるなんてことはないと思うんだけど。まぁそれはそれで、波の音を楽しんでいただけたらなーなんて思いますー。波の音ASMR~なんてね。てかさー、めっちゃ寒いんだけど。さすがに12月の海はしんどかったかなー。めちゃくちゃ冷たい。あ、そんなの当り前だ、冬の海に入るなんてバカだって思ったでしょ。君はいつも私のことバカにするんだもん。まったくひどいったらないよ。実はささやかながらに傷ついてたんだからね。少しは自重してください。まぁ私がバカなのは否定できないんだけどさ。あはは、だってバカじゃなかったら君のこと好きになんてなるわけないもん。君の言う通りバカなんだよ、私は。んー、でもさ、それも悪いことばっかじゃないのかなって、思ってたりしたんだよ。バカな私がかわいいって、君はよく言ってくれたでしょ。ほんとに思ってたかどうかは知らないけどさ。…はーぁ、ほんと、ほんとにバカだよねぇ。ほら、恋愛は好きになった方の負けって言うじゃん?それなら、私は惨敗だよねぇ。それもさ、大がつくくらいの!まったくさ、君ももう少しくらい私のこと好きになってくれたってよかったのに。あ、ねぇ、覚えてる?去年ここに来たとき、一緒に拾ったシーグラス。ストラップにしたじゃん。君はまだ持ってるよね。こないだ一緒に飲んだ時、部屋に飾ってあったの見たもん。…あれさ、壊れちゃった。だからね、君とお揃いのもの、もう何もなくなっちゃった。ひとつもないんだーって思ったら、なんだかすごくさみしくなっちゃってさ。それになーんか最近うまくいかなくって。なんか…私ってさ、ちょっと鈍臭いし、とろいし、つまんない奴でしょう。自覚してるくらいだもの、周りのみんなからもそう思われてるんだってわかっててさ。がんばってるつもりなんだけど…多分みんなからしたら、私は全然がんばってないんだよね。人並みのことが、がんばってがんばって、やっとのことでできるようになるの。……そんな奴さ、いらなーいってなっちゃうじゃん、普通。へへ、そんなことばっか考えて、つらくなっちゃったんだよね。だから海に行こうって思って。その矢先にストラップ壊れてさ。なんとなく、さいごに君の声が聞きたくなったんだ。あーあー、ごめん、なんか暗い感じになっちゃった。そんなつもりなかったんだ。ほんとはね、君が今どうしてるのかとかそんなこと聞きたかったの。

ね、元気にしてる?ちゃんとご飯食べてる?私が起こさなくても、朝起きれてる?

…私なんかいなくても生きていける、そんな君が好きで、好きで、大嫌いだったよ。

私のわがままなんてひとつも聞いてくれなくてさ。今日だって、さいごに声が聞きたいって、思ったのに。それだけだったのに。

……そろそろかな。あまり長々と話してもね。すごく夕日が綺麗だから、見に行くね。聞いてくれてありがとう、元気でね。さよなら。



​───────メッセージの再生を終了します。もう一度メッセージを再生する場合は……………


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