受け継がれるモノ 

@busacat-kabu

第1話

「何やってるの!」


外は雪。

ぬくぬくのコタツに入り、緑のタヌキのお出汁のきいた芳しいおつゆの匂いを嗅ぐと思い出す、母ちゃんの声。


「そんなに飛ばして、早く拭きなさい!」


ボクは食べるのが下手っぴで、お蕎麦をちゅるってした時におつゆを飛ばして、しょっちゅう叱られていた。

なぜだか白い服を着てる時に限って飛ばしてしまい2倍怒られていた。


「お兄ちゃん、早く食べようよ~」


家は母1人子2人のいわゆる母子家庭だった。

いつも母ちゃんは夜遅くまで働いていた。

ボクは2つ下の妹とお留守番。

2人でコタツに入り、お気に入りのアニメを

見ながら緑のタヌキと赤いキツネを食べるのが大好きだった。

ボクは緑派、妹は赤派だった。


「まったくもう!あんた達は!」


洗いたてのコタツカバーに、丸々1つこぼした時にはいやってほど怒られた。

妹と協力して、どうにか拭いてごまかそうとしたけど、あの芳しい香りですぐにばれてしまった。

でも、1番忘れられないのはあの時だ。


「きゃ!あつい!」


ほんの少し油断した時だった。

いつものようにお湯を2人分ヤカンに火をかけて、今のうちにトイレを済ませておこうと

2分~3分目を離した時だった。

妹がボクのお手伝いをしようと、台所に用意しておいた緑のタヌキと赤いキツネにお湯を注ごうとしてこぼしてしまったのだ。


「とにかく冷やさないと!」


ボクは早く妹の赤くなった右足を冷やさければと思い、無我夢中で着ていたTシャツを脱ぎ

水に濡らしたやつを足に巻きつけたり、去年のクリスマスに、みんなで食べたケーキに付いていた氷みたいな冷やすやつを肌にあてたりして、母ちゃんが帰って来るのを待った。


「お母ちゃん、遅いね」


母ちゃんの会社に電話をしたら、もう出ましたと素っ気なく言われた。

当時、携帯電話は高級品で家には無かったから

直接電話することが出来なかった。

母ちゃんが帰って来たのはそれから10分も経って無かったみたいだけど、ボクには無限の時間に感じた。


「大丈夫!?」


すぐに母ちゃんは夜でも診察してくれる病院に電話をして、ボクと妹を自転車に乗せてロケットのように飛んで行った。

幸いやけどは大した事なく、跡が残るような事も無いだろうとの診察結果だった。

すぐに冷やしたのも効果があったみたいだった。

安心した母ちゃんは涙を浮かべ、ボクらをぎゅっと抱きしめて、ごめんねと言った。

その夜に3人で食べた、緑のタヌキの味は今でも忘れない。


「お父さん、ボク達が作ったんだよ!」


振り向くとそこには、満足そうな笑顔を浮かべて家族4人分の、緑のタヌキと赤いキツネを

おぼんで運んでいる息子と娘がいる。

お出汁の良い匂いが漂っている。


「せ~の、いただきます!」


いつも家族の笑顔の隣には、緑と赤の丸があった。

この芳しいおつゆの匂いを嗅ぐと思い出す

色あせないあの日の思い出。







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