第31話 これからのこと
「明日は早いわ。今日はもう寝ましょう」
「ギルドより先に調査に向かうわけか」
「そういうこと」
ダイアナは竈に向かって手を差し伸べた。
すると、ダイアナの指にまとわりついていた
「調査の結果、クロと魔物に関わりがあったとわかれば厳しい処罰を受けるわ。最悪……」
「それ以上は言わなくていい」
魔物は人間に害を為す存在だ。
事情を知る村のギルドなら恩情をかけてくれるだろうが、ギルド本部は聞く耳をもたない。
近隣の村を治める領主も黙っていないはずだ。手下の騎士を引き連れて、クロを捕まえにくるかもしれない。
「明日は朝一番に市場に出かけて食料を買い込みましょう。教会で調べ物もしたいから、クロを預かってもらえるようシスターにお願いしてみるわね」
「了解だ。寝る前にトイレに行っておけよ。お茶を飲んだまま眠ると、おねしょしちゃうからな」
「子供扱いしないでちょうだい。昔とは違うんだからね!」
「あはは。悪かったって」
俺は笑い声をあげながら二人分のカップを回収した。
料理当番だけでなく洗い物も俺が担当だ。
ダイアナは致命的に家事が下手なので、彼女の下着も洗っている。ダイアナの恥ずかしいところはすべて知り尽くしている。
「ダイアナも今年で18だ。立派な大人のレディーだもんな」
「その通り!」
「だったら一人でクロを寝かしつけられるよな」
「え?」
「ウチのベッドは二人用だろ? 三人で寝るには狭い。俺は床に毛布を敷いて寝るから、クロに添い寝してやれ」
「添い寝するのはいいけど……大丈夫かしら。夜泣きとかされたら、どうしたらいいかわからないわ」
「そこまで子供じゃないから」
大丈夫、と言いかけて俺は言葉を止めた。
大丈夫なわけがない。記憶を失って家族と離ればなれになったんだ。
明るく振る舞っているが、内心では心細いに違いない。
俺は首を横に振って、ダイアナに微笑みかける。
「こういう時のために母親のぬくもりが必要なんだよ。…………たぶん」
俺も母親のぬくもりを知らずに育ったから、確かなことは言えない。
だからこそ、不意に寂しくなった時に誰かが傍にいてくれることの心強さを知っている。
「俺が代わってもいいけど、それだとダイアナが独りぼっちになるだろ? それこそ夜泣きをされたら困る」
「誰が泣くもんですか!」
ダイアナは目を吊り上げて怒る。
けれど、すぐに目尻を下げてモジモジと体を揺らし始めた。
「でもまあ……寂しいのは本当かも」
ダイアナはそう口にすると、俺に近づいて上着の裾をぎゅっと握り締めてきた。
「だからパパとも一緒に寝たいな、……なんて」
「パパ…………」
上目遣いでそういうことを言うのはやめてくれ。俺に効く。
「ワタシもクロも小柄だから詰めれば三人いっしょに眠れるわよ。だから、ね? おねがい」
「…………」
「ダメかな……。ダイアナ、パパとおねんねしたい」
「ダメなもんか! パパ、いくらでも添い寝しちゃうぞ!」
「えへへ。やったぁ♪」
俺は勢い余ってダイアナを抱き締める。
ダイアナも心から嬉しそうな笑顔を浮かべて、抱き締め返してくれた。
「今すぐおまえを本当のママにしてやろうかっ! オレサマ、オマエ、マルハダカ!」
「きゃ~~~♪」
「んゅぅ…………パパ、ママ……」
「クロ……!?」「クロ……!?」
俺とダイアナが合体の儀式を始めようとしたら、クロが二階から降りてきた。
クロはショボショボと霞んだ目を手で擦りながら、内股になってモジモジしている。
「おしっこ…………」
「あ~、はいはい。
「うぃ……」
ダイアナは慌ててクロに駆け寄り、その手を握り締める。
やっぱり杞憂だった。ダイアナはきちんとママをしている。
「先に行ってベッドを温めておくよ」
俺は苦笑を浮かべて二人を見送る。この調子だと合体の儀式は当分の間お預けだろう。
クロが何者で、何処から来たかなんて関係ない。
俺はクロを護ると誓いを立てた。だから何があっても信じ抜く。
俺は大切な人の笑顔を護るために戦ってきた。
魂に刻んだ
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