第32話 嫁さんと娘とデート
クロを我が家に迎えた翌朝。
遺跡調査の準備を整えるため、俺とダイアナはクロを連れて朝市に出かけた。
クロは行き交う人の波を目で追いながら、声をあげて驚嘆する。
「ふわわ~っ! パパっ! 見てみて! 人がいっぱい! 今日はお祭りなの?」
「朝はいつもこんなもんだ。村の住人が一斉に動き出す時間帯だからな」
村の大通りに面した商店街には、近くの畑で採れた
商店街には食料品以外にも、生活必需品や工芸品、毛織物やハンター用のナイフなども売られていた。
朝市目当ての旅人や行商人も顔を出しており、村の人口以上の人手で賑わっていた。
「迷子にならないように手を繋ごう」
「うんっ!」
右手を差し出すと、クロは満面の笑みを浮かべて俺の手を握ってきた。
子供の小さな指で手を掴まれると、子猫にじゃれつかれてるみたいでくすぐったくなる。
「むっす~。奥さんのここ空いてますけど?」
俺とクロが仲良く手を繋いで商店街を歩いていると、頬を膨らませたダイアナが空いた方の手を握ってきた。
それから腕を組んで、ほどよい柔らかなの横乳を俺の腕に押しつけてくる。
「奥さん。当たってますよ」
「当ててんのよ」
ダイアナは得意げな笑みを浮かべ、さらにグイグイとおっぱいを押しつけてきた。
「クロはこういうことできないでしょ」
「むーーー! クロだってできるもん!」
ダイアナに煽られたクロは頬を焼き餅みたいに膨らませて、俺の手をさらに強く握ってくる。
「パパはあげないもん!」
「それはこっちの台詞よ」
「子供相手に張り合うなよ……」
右手にクロ、左手にダイアナ。両手に花だが、精神年齢が近いこともあって姉妹を連れ歩いてるような気分になる。
「ん……?」
市場を行き来する人の流れに目を向けると、見知らぬ誰かと目が合った。
目が合った相手は大きな
灰色のローブを目深に被っており、人相はわからない。
けれど、爛々と輝く紅い瞳でこちらをじっと見つめてきて――
「…………」
行商人と目が合ったのは一瞬のことだった。
相手はすぐに背を向けた。あっという間に、その姿が人混みに紛れてしまう。
「パパっ。アレはなに! 向こうのお店から甘い匂いがする!」
「ん? ああ、あれはレッドベリーの飴煮だな」
クロに腕を引っ張られて我に返る。
色気より食い気なのだろう。クロは屋台で売られていた果実の飴煮を喰い気味に指差す。
甘いシロップに漬け込んだベリーの実を、食べやすいように串に刺して売っている。日本の屋台で売られているイチゴ飴みたいなものだ。
「飴ちゃん欲しいか?」
「欲しい!」
「よーし! 愛しいクロのためだ。パパ、今日は奮発しちゃうぞ~!」
「わーい!」
俺は懐を調べて財布を取り出す。
だが、ダイアナが横から手を伸ばして財布を奪ってしまった。
「はい。没収~」
「なんでだよ!? 昨日のクエストで支度金貰っただろ。少しぐらい贅沢してもいいじゃないか」
「昨日のはすでに使い切ったわ。せっかく準備した荷物も森に置いてきちゃったし」
「あ……。そういやそうだったな」
「今回の調査はギルドに内緒で行うから追加の支度金も貰えない。というわけで、まずは宝石店で魔石を鑑定してもらわないと」
ダイアナは俺の財布を懐にしまうと脇道を指差した。
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