第33話 ロドウィック宝石店


 大通りから脇道に入り、裏通りを進むこと数分。

 裏通りのさらに奥まった路地の裏側にその店はあった。

 店先には【ロドウィック宝石店】と書かれた看板がぶら下がっている。

 魔石を買い取ってくれるこの村唯一の宝石商だ。


「すみませーん」


 鈴の音を響かせながらドアを開き、店内へ入る。

 中はこじんまりとしており、取引を行うための接客用カウンターが正面に設置されているだけだ。


「はいは~い。いらっしゃ~い」


 ダイアナが声をかけると、しばらくしてカウンターの裏から角刈りで小太りのおじさんが出てきた。この店の店主、ロドウィックさんだ。

 肌は茶色く日焼けしており、仕立てのいいシルクのチョッキを羽織っていた。いかにもな感じでわかりやすい。

 カウンターに現れた店長は俺とダイアナの顔を見ると、両手を組んでを作った。


「あらん。シズちゃんとダイアナちゃんじゃないの。それと、そちらの子は……」


「あぅ……」


 店長はオネエ言葉で話しかけてくる。

 得体の知れない相手に怖じ気づいたのか、クロは俺の背後に隠れてしまった。


「安心しろ。店長はすごくいい人だから。ほら、挨拶して」


 俺はそんなクロを背中を押して挨拶を促した。

 クロはおずおずと一歩前に出て、ぺこりとお辞儀した。


「クロ、です……」


「まあまあ! きちんと挨拶ができて偉いわ。そうだ。飴ちゃんあげましょうか」


「ほしい!」


「ふふっ。素直でいい子ね。気に入ったわ」


 店長は笑顔を浮かべながら、クロにベリーの飴煮を手渡した。

 クロは飴を素直に受け取り、さっそく舌を出してペロペロと舐め始める。

 クロはすっかり飴の虜だ。しばらく大人しくしてるだろう。


「それで今日はどのようなご用なのかしら、英雄さん?」


「英雄?」


「槍使いの子が酒場で自慢しているのを聞いたわ。あのアースドラゴンを倒したんですってね」


「だからアレはラッキーパンチというか。相手が穴にハマって自滅したというか」


 俺は元勇者だ。魔王を倒したことで魔王軍に恨みを買っており、命を狙われている。

 村への被害を鑑みてやむを得ずアースドラゴンを倒したが、できればあまり噂を広めてほしくない。

 けれど、店長はこちらの事情なんて知らない。

 まるで吟遊詩人が英雄譚を謳うように、俺の活躍を口にする。


「『眠れる竜を目覚めさせることなかれ。禁忌を犯せば大いなる災いが訪れるだろう』。 そういう言い伝えがこの村には残っているわ。その災いを鎮めちゃったんですもの。シズちゃんの名前が後世に残っちゃうかもよん?」


 災い云々はギルドのお姉さんやヨシュアくんも言っていた、竜の巣の言い伝えのことだろう。

 ただの御伽噺おとぎばなしだという話だったが、実際にアースドラゴンが眠っていたわけだ。


「禁忌……か」


 何か気になることがあるのだろう。ダイアナは店長に話しかけた。





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