第3話

 シュラは色々と思ったことはあったが、慌てて涙目を拭い、とりあえずため息を吐いて……



「姫様、助けていただき……ありがとうございます」


「う、うむ、そうか。貞操も無事なようでなによりだ」


「は、はい……」


「うむ……」


「あの姫様……助かりましたが……そろそろ下ろしていただきたく……自分は重いですので……王子様抱っこなどされても……」


「い、いや、そ、そんなことは……」


「だいたい、自分に何かあるよりも、姫様の身に何かあることの方が国にとって、そして人類にとっても一大事なのです。こんな所までお一人でくるなど……」


「うぅ……ごめん……なさいね。ただ、その、あなたの力を信用していないわけではないけれど……やはり、あなたも男だから……」


「自分を男扱いしないでいただきたい。それは、自分への侮辱ですよ?」


「あ、あう、そ、それは……」


「まったく……自分のように可愛げのない男は剣さえあればよいのです……とはいえ、そんな自分も不甲斐ない目に……姫様の手を煩わせ……」



 普段クールで感情表現が乏しいシュラだが、この時だけはとても寂しそうに切ない笑みを浮かべた。


「姫様に来ていただかなければ、きっと自分はあの汚い女たちに犯されて穢されて……情けないです。男であることに甘えぬようにと鍛錬を重ねてきたというのに……自分は……ふふふ、なんと情けない……ただ中途半端な力を持った、可愛げのない情けない男です……自分は……」


 その笑みがアテナの心を揺るがし、そして不謹慎ながらも抱きしめたいとすら思った。

 だが、そんなか弱い男扱いすることを望まないシュラは、アテナにそれを許さない。

 しかし、何かを言わねばならぬと感じたアテナはしどろもどろになりながらも……



「わ、私は……あ、あなたの、あなたの男の子らしい可愛いところも知っているわ!」


「ひ、姫様?」


「そ、その、ほら……隊の規律であなたも湯浴みは皆と一緒になるけど、その、き、着替える時、少し恥ずかしそうにしているところや……森で出くわした小動物の頭を笑顔で撫でてあげたり……野原に咲く花を愛おしそうに眺めたり、あ、あと、あなたが部屋でぬいぐるみを抱きしめているのも見たことがあるわ!」


「なっ、なぜ、それをっ、いやっ……ひ、姫様、忘れてください」


「忘れないわ! いいじゃない! あなたはどれほど強かろうと、まぎれもなく男! 男の子らしい一面があって何が悪いの? それは、決してあなたの誇りを乏しめるものではない! 何度でも言うわ! あなたはかわいい一面も持っているわ」


「っ、ご、御冗談を……」



 そのとき、いつもクールで、笑うことがあっても微かにしか笑わないシュラが、顔を真っ赤にしてアテナの腕の中で小さく丸まった。

 その姿、いつも凛々しく強く気高い男騎士である彼からはかけ離れた姿であり、そのギャップがさらにアテナの理性を決壊させた。


「っ、ゃ、シュラ!」

「は、はい……」

「わ、私の男になってもらいたいの……あ、あなたに……」

「……ッ!?」


 勢いに任せて言ってしまったアテナ。

 しかし、後悔はないと顔を赤らめながらも真剣にシュラを見つめ、王子様抱っこしているその手に更に力を入れた。



「姫様……御冗談を……自分のような可愛くもない、男らしさもない男に、白馬に乗ったお姫様が迎えに来てくれるなどというおとぎ話のようなことはありえません」


「何度も言わせないで。あなたはかわいい! 私が保証するわ。その証明を……今、あなたの唇に……」


「姫様……」



 その真剣な眼差しにシュラも自然と惹かれ、やがて二人は……


「……姫様……」

「シュラ……」

「あの……その……」

「ん?」

「先ほどから……自分の股を……鷲掴みにするのは……」

「……ふぇ? ん? はう!? この柔らか固いのは……はうわ!?」


 二人の唇が重なるかと思われた次の瞬間、いつものクールな眼差しが更に冷たくなったシュラがアテナを睨んでいた。

 それは、王子様抱っこしていたアテナの手が、無意識のうちにシュラの股を触っていたからだ。



「しま、ちが、これはワザとではないわ! その、だ、だから、違うのよ、シュラ! あ、あなたの、た、大切な場所を握ってしまったのは―――」


「エッチです、姫様……自分にエッチなことはやめていただきたい! 自分は男を捨てた身です。この身はただ帝国の平和のために生涯捧げるものです」


「ち、違うのよぉ!」



 誓ってワザとではない。これは不慮の事故である。

 このまま誤解されてはダメだと、アテナは慌ててシュラに分かってもらおうとしたのだが……


「あれ? でも……」


 そのとき、アテナはあることに気づいた。


「ねえ、シュラ……あなたの股間をまさぐったのは本当に申し訳ないと思うけれど、あなたの股間……どうして固かったのかしら?」

「ッ!?」

「貞操帯ではないわよね?」


 アテナの問いにビクッと体を震わせて、顔を逸らすシュラ。チラッと見える横顔は無表情……ではなく、顔を真っ赤にして汗をダラダラと流して動揺している。


「ひょ、ひょっとして、あなた……」

「ち、違います!」

「違うって……で、でも」

「ちが……違います……」


 その時、アテナは初めて見た。

 真っ赤になって照れるだけでも珍しいシュラが……その姿を見て、アテナは生唾のみ込んで震えた。「かわいい」と胸が疼いた。


「じ、自分は男を捨てた身です……色恋などには決して……こ、これは生理現象です。こんな品のない下劣な――――」


 あくまで「間違いだ」と主張するシュラだったが、気づけばアテナは顔を背けていたシュラの頬に手を置いて自分に向かせた。


「大丈夫よ。あなたがエッチでも。勃〇なんか気にしないで。そんなことで嫌いにならないわ! だって私も乳首〇起してるもの」

「ッ!?」


 アテナはもう我慢ができなかった。

 慣れた手つきで自分の鎧を投げ捨てて、シュラの手を自分の胸に……もう片方を下に……


「ほら、触って……ね? あなたでこんなに興奮しているの……上も……下も」

「ッ!?」

「ひ、姫、な、え!?」

「シュラ、かわいいわ。シュラ!」

「んぐっ、んむぅ!?」


 シュラの唇を無理やり奪った。


「あ、そんな……ぼ、『ぼく』のはじめて……っ、いや、だ、だめです、姫様! こ、このような所で、お戯れを!」

「構わないわ! それに、ダメだと言いながらあなたの体は正直よ!」

「っ、こ、これは、ちが、姫様!」


 唇を奪われ、体中をまさぐられるシュラ。

 モゾモゾとアテナに触られ、抵抗しようとするが男では本気の女の力には抗えず、徐々にシュラから抵抗する力が抜けていく。

 気づけば二人は落馬して草原に倒れるが、アテナはそのままシュラに覆いかぶさって続ける。


「ぼ、ぼくのような、男らしくない筋肉質な固い体など……」

「素敵な身体よ。舐めちゃいたい」

「ひぐっ?!」

「あなたの6つに割れた腹筋も、胸筋も、お尻も、アレも私は全部舐めたいし、吸いたいわ!」

「姫様……」

「愛しているわ、シュラ。私の男になって」


 アテナもこういうことは初めてであり、男の鎧や衣服を脱がすのは手間取り、徐々に強引になっていく。


「っ、あ、あれ? えっと、ん、あれ?」

「……姫様……」


 しかし緊張もあってか、シュラの鎧の金具をスムーズに外せずに戸惑っていると、これまで抵抗していたシュラがついに観念したのか……


「姫様……こ、ここです」

「あっ……」


 アテナの手に自身の手を添えて優しく誘導。

 それだけで、アテナは更に胸が高鳴る。

 そして……



「姫様……その、自分も初めてですので……その、やり方が分かりませんが……その……や、優しくしていただけたら……」


「ッ!?」


「あんな女たちに体をまさぐられた記憶を上書きさせてください……」



 ついにシュラが流れとアテナに身を委ねることを受け入れた。

 鎧を外し、衣服のボタンもはだけさせ、その身を曝け出し……


「シュラ、綺麗よ。とっても」

「……恥ずかしいですから、あまりジロジロ見ないでください……」

「いいえ、見るわ。こんな素敵な身体、何度でも見るわ」


 戦いに生きる身として、普通の男としての人生を諦め、そんな自分の体を褒められるとは思わなかったシュラがまた照れる。

 

「ねえ、あなたの胸……触ったり……舐めたりしてもいいかしら?」

「こんな筋肉……硬いですよ? 舐めたくなるものですか?」

「い、いいでしょ! 男の子の逞しいオッパイを嫌いな女の子はいないんだから!」

「ふう……もう、姫様は……」


 そして、色々と観念したシュラは……


「姫様、そ、その……さ、最初は……」

「何かしら?」

「さっきは無理やりでしたので……も、もう一度……今度はちゃんと……姫とキスさせてください」


 だが、それでもシュラも男だった。

 素敵な女に優しく抱かれて、優しい口づけにも憧れていた。

 そんな男の子の一面を見せるシュラにアテナは……


「忘れられないほど、存分にキスしてあげるわ」

「あっ……」


 そして二人は場も時間も忘れて交わり合った。
















「……姫様……恥ずかしいです」


「ふふ、いいじゃないの。歩けないのでしょう?」


「くっ、情けない……腰が抜けて歩けなくなるなど……く……もう、姫様はやはりエッチです」


「な、なにを! で、でも、あなただって最後の方は自分から腰を……」


「覚えてません。違います。何でもありません」



 白馬に乗った姫が、腰が抜けるほど力を失った男の子を王子様抱っこしながら微笑んでいる。



「でも、姫様……」


「な、なんだ?」


「自分の……いえ、僕の初めてを奪ったのです。責任取っていただきたい。あなたの手に抱かれて、自分はただの男になってしまったのですから……」


「……ッ!」



 それは、過剰なまでに女は女らしさを、男は男らしさを求められる世界において、不器用で頑なな男に恋する白馬に乗ったお姫様の一幕。



「もう一回、あなたを抱くわ! また燃えてきたわ!」


「ちょ、姫様ァ、あ、そんな、あ――――♥」







――あとがき――

~2021/12/15

ビックリ! カクヨムコン短編賞で、週間総合1位でした!!!! ありがとうございます。せっかくですので、まだ見ていない方々、面白いと思っていただけましたら、フォローと下記「★」でご評価いただけたらモチベーション上がります。何卒! つまらなければ「★」1つで結構です。それも今後の参考にしたく。

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白馬に乗った最強お姫様は意中の男の子を抱っこしたい アニッキーブラッザー @dk19860827

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