第2話
世界最大最強国家と謳われるメスジョーイ帝国では長きに渡る戦乱により、情勢は不安定であった。
「ふふ、綺麗に咲いている。この白いユリの花……彼女も喜んでくれるかな?」
帝国領土の海岸線付近の森を抜けた先に広がる野原には、数多の花々が美しく咲き誇り、可憐に微笑む「青年」が花を愛でていた。
穢れを知らぬその白く細い手足。
しかし、その指先が花に触れようとした、その時だった。
「へっへ……おうおう、お兄さん、こ~んなところに一人でなにやってんの~?」
「げへへへへ、へ~、けっこう可愛いじゃん」
突如、美しい花畑の花を踏み潰し、空間を汚すような下衆な笑みと腐臭を漂わせる集団が現れた。
全身をボロボロの布キレや、安い銅製の鎧などで胸や股間だけを覆い、その手には錆付いた剣や槍を持っている。
年齢は青年と同じぐらいのものもいれば、一回りは離れていそうなものも居る。
野生的な風貌で現れたその者たちは、全員が「女」であった。
「ひっ!? ま、まさか……野盗?」
賊の類。どう見ても、カタギではないその女たちに、男はか弱い表情を歪めて、恐怖に染まった。
その表情に、野盗の女たちは誰もが涎を垂らして、いやらしい笑みを浮かべた。
「けけけ、せ~か~い。で? おにーさん、ダメじゃんこんな所に一人で居たら」
「そうそう。あたしらみたいなスッケベな女たちに犯されても文句言えないんだぜ?」
次の瞬間、悲鳴を上げて青年は逃げ出そうとするも、賊の女たちは一斉に飛び掛って青年を押し倒した。
「い、いやだ! やめてくれ、お願いだ、やめてください!」
必死に泣き叫んでジタバタする青年だが、その行為は余計に女たちを悦ばせるだけ。
「ひっひ、やめるわけねーじゃん、あたいらが」
「そうそう、いっぱい可愛がってやるからな~。黙ってお股を出しましょうね~」
青年の衣服を乱暴に引き千切る女たち。
女たちもまた、同時に己の下腹部を覆う下着や鎧を剥ぎ取って準備に取り掛かる。
「ひ、な、なにを!?」
「決まってんじゃん。あたしらを孕まさせてやるんだよ~。ひっさびさの男だからよ~」
今から自分は何をされるか?
青年は顔を青ざめさせ、すぐに絶叫して泣き叫んだ。
「い、いやだ、やめてくれ! 御願いします、た、助けて! まだ……ぼ、僕はまだ童貞なんです! 僕には……僕には婚約者が居るんです! 清い体のまま、彼女と結婚したいのです!」
未だ経験が無いことを泣き叫びながら口にした青年だが、それもまた逆効果であった。
その発言に女たちはニヤニヤと口元を緩め……
「へへへ、そりゃー可愛そうにな~。あたいらみたいなスッケベに見つからなきゃ~、結婚まで童貞守れたの・に・なっ! 興奮してきた、ぜってー孕んでやるからな~」
「ひぐっ、い、いやだあああああああああああああああああ! 僕を穢さないで! や、やめて、お、お婿に行けなくなる……いやだー!」
「ふっ、男の力なんかでどうにかできると思うなよな~」
女に対して全世界で3割しかいないか弱き男たちは、幼いころに抱いた白馬のお姫様と結婚するなどという夢とは程遠い現実に襲われていた。
か弱き男たちが歪んだ女たちの性の対象として見られることは、今の世では珍しくない。
女が力を持ち、男は弱いもの。
女が外で働き、男は家を守る。
女が尊ばれ、男に一切の権限が与えられない。
王族であれ、貴族であれ、全ての権限は女に与えられる。
そんな世において、ただでさえ数の少ない男が、女に攫われてその身を穢されるのも日常茶飯事であった。
「消え失せろ……ゲスな女たちよ」
「ッッ!?」
だが、そんな世で……
「あ……あなたは!?」
「もう大丈夫だ。安心しろ。君は急いで逃げるんだ。ここは自分にまかせて、速く!」
「は、はい!」
二つの希望があった。
「ふべっ!? っ、誰……ッ!? て、テメエは!」
一つ目の希望。それは、男たちの希望と呼ばれた、男の英雄。
「男のくせに長身であり……細身でありながらも鍛え上げられた肉体……氷のように冷たい瞳と、その黒髪!」
「て、テメエは、あの姫騎士の片腕……シュラ!」
「な、なんだと!? あの帝国最強の姫騎士の次に帝国で強いと言われている……」
普段自分たちが蹂躙してきた男たちの中でも別格の強さを持つ者がいた。
「へへ、想像以上にいい男じゃねえかよ……そのクールなツラを、是非グチョグチョになるまで犯してやりてーぜ」
「下賤な者どもめ……お前たちの頭の中はそれだけか……男を集団で穢そうとするなど……それでも女か? 恥を知れ」
「うるせー! お前ら、やっちまえぇ!」
本来男が入ることが許されない、帝国の騎士団に男で唯一入団が許可され、更に数々の功績を上げたことで、最強の姫騎士の側近にまで上り詰めた男。
「帝国に蔓延るクズどもめ。我が剣にて成敗してくれよう」
力強く、速く、そして洗練された極められた剣の流れ。
それは醜悪な賊の女たちですら見惚れてしまうほどの美しさ。
男が女に勝てない世の中において、唯一の例外。
恵まれた才能に驕ることなく、気の遠くなるような努力を積み重ねて得た力である。
「だ、だめだ、こいつ! 強すぎる……くそ、男のくせに!」
「くそぉ……ええい、撤退だぁ! 全員逃げろぉお!」
「おう、捕まってたまるかよぉ!」
一方で、誇りなき賊たちは、たとえ相手が男であろうと旗色悪くなれば逃げだす。
人の命や男の尊厳を軽んじる一方で、自分たちの命だけは何よりも惜しい。
「逃がすものか……ん?」
しかし、それを見逃すシュラではない。
その背を追って一人残らず成敗しようと駆けだした……その時だった。
「「「「今だああぁぁぁぁあ!!!!」」」」
「ッッ!?」
逃げたと思った賊たちが一斉に声を上げる。それは、合図。
「しまっ、これは魔法陣!? 罠!?」
完全な油断。迂闊。
シュラの足元に出現した魔法陣より幾重もの鎖が出現し、その身を完全に拘束した。
「へへへへ、ひっかかったー!」
「男のくせに脳筋な単純バカで助かったぜ~」
「あ~あ、あーしらに捕まって……ひひひひ、覚悟できてんだろうな~」
先ほどまで逃げる演技をしていた族の女たちが一斉に振り返ってニタニタと笑みを浮かべる。
自身の胸や股間をまさぐって、涎を垂らしている醜悪な姿。
「お、おのれ……卑怯な……貴様ら、それでも女か! 正々堂々と戦う誇りもないのか!」
己の四肢を引き千切る勢いで身を捩るシュラだが、その拘束から抜け出せそうもない。
ただただ己の不甲斐なさと、賊の女たちへの怒りで憤怒に染まる。
だが、女たちはヘラヘラ笑い……
「ばーか、あたいらみてーなクソ女に何を求めてんだよ~」
シュラの怒りなどまるで意に介さない。
この現実にシュラは項垂れ……
「くっ、殺せ!」
潔く誇り高い死を選ぶしかないと覚悟を決めた。
だが、賊の女たちはその覚悟すら踏みにじる。
「なーに言ってんだよ、殺すわけねーだろ? もったいねー」
「今からあんたは、あたしらの共用の肉竿になるんだからよ~」
「なあ、早くヤッちまおうぜ? 私、もう股が濡れ濡れなんだからさ~」
「誇り高い男騎士様を犯して孕むなんてサイコー♪」
「へへへ、男の体……いいねぇ~、あんたみたいな気の強いプライドの高そうな男……これから、そのお股の剣で、私ら全員を孕まさせてもらうんだからよぉ~」
「早く咥えたいわ~」
肉体を殺すのではなく、肉体を穢して心を殺す。
「ッ、な、なに!? ふ、ふざけるな! 誰か貴様らなんかに!」
「げへへへ、下はどうなってるのかな~」
「や、やめろぉ! ぬ、脱がすな! 殺せぇ! じ、自分の体はお前たちなんぞが気安く触れ、っぐ、う! やめろ! いや、いやだァ! 殺せ! 殺せえええ! た、や、いや、やめろぉ!」
その瞬間、顔を青ざめさせてか弱い男のようにジタバタして抵抗しようとするシュラだが、賊の女たちは容赦しない。
シュラのズボンに手をかけて、ずり下ろそうとする。
だが、その時だった。
「我が光の爆剣に刻まれて塵となれ!」
「「「「うわぁあああああああ!!??」」」
「つッッ!?」
賊たちが一斉に巨大な爆発音とともに空高く吹っ飛ばされたのだ。
「あっ……」
その巨大な爆裂は、シュラすらも巻き込むほどの……
「来たわ! シュラ! ピンチではないかしら? 私が来たからには、もう大丈……って、シュラぁぁぁぁあ!?」
立ち込める土煙の中に現れた、白馬に乗ったお姫様。
ピンチの男を救うために颯爽と現れたというシチュエーションのつもりが、その剣の威力で想い人まで巻き込んでしまう。
鎖も吹き飛ばされ、天高らかに飛ばされるシュラ。
慌てて馬を走らせ、落下位置に辿り着いたアテナは、宙から落ちてくる自分と同じぐらいの身長のシュラを衝撃に負けずに力強く抱き留めた。
「……ど、どうかしら? だ、大丈夫? シュラ」
「……姫様……」
男なら誰もが憧れる王子様抱っこ。
アテナもここでキメてシュラの気持ちを自分に向けようとしたのだが、その表情はバツが悪そうであった。
――あとがき――
第3話は11日8:02に投稿します。よろしくお願いします。
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