白馬に乗った最強お姫様は意中の男の子を抱っこしたい

アニッキーブラッザー

第1話

 この世界の男の子が一度は憧れるもの。それは白馬に乗ったお姫様に、王子様抱っこされることである。




 物憂げな表情を浮かべながら、穏やかな海岸線で潮風に当たりながら、果てまで続く広大な水平線を眺める一人の女が居た。



「姫様……アテナ姫! どうされたのです? 海を眺められて」



 浜辺に佇む一人の女。


「いえ……なんでもないわ。ただ……海を見て心を落ち着かせていただけよ」

「姫様……」

「大丈夫だって」


 肩口まで伸びた銀髪は一つにまとめて結い、その瞳は気高さと優しさを宿している。

 全身を白銀と紋章が刻まれた甲冑とマント。そしてその腰元には神々しい存在感を放つ聖剣を携えている。


「それで、最近港町に現れていると言われている賊たちについてだけれど……」

「はい、そちらは先ほど『シュラ』が調査に行かれました」

「ええ……って、一人でなの!? いえ、シュラならば男とはいえ一人でも大丈夫とは思うけれど……まったく、行くのなら私にも声をかけてくれればいいのに……」

「姫様は今回のモンスター討伐遠征で非常にお疲れだと言われていたので……」

「ふぅ、……男のくせに無用な気遣いを……」


 部下の報告を聞いて溜息をつく、帝都の姫騎士アテナ。

 すると、目の前の部下はまだ話が終わっていないのか、どこか言いにくそうな表情を浮かべながら、


「はい……あ、あと、姫様」

「なーに?」

「女帝様から手紙を―――」

「必要ないわ」


 しかし、アテナは直ぐに遮った。


「大方、見合いの話でしょう。母様も私が未だにヴァージンなのをご立腹のようね」

「姫様……」

「だけれど、私はそんなものは必要ないの。心から愛する男……惚れた男と出会ったら、その男を抱こうと思うの」


 微笑んでウインクするアテナに、部下の女は苦笑した。


「あ~、そうですか……姫様が海を眺めて何を悩まれているのかと思いましたが……そういうことですか」

「……ええ。母様はすぐに結婚しろ……気に入った男はいないか……帰ったら真剣に話をと、しつこいのよ……そして、もうすぐ帰らなくちゃいけないと思うと……」

「そうでしたか。でも、女帝様の仰ることも……」

「分かっているわ。だから、憂鬱なの……私には……」


 そう言って、空を見上げるアテナ。

 その表情を見て、部下の女はピンときた。

 それは、アテナの表情が「結婚とかまだ何も考えていないから悩んでいる」ではなく、「もう答えが出ている、だけど……」という表情だと。

 それを確かめる意味も込めて……



「今どき、姫様ぐらいじゃないですか? 婚姻を交わせる年齢に達しても未だにヴァージンな方は。大体、姫様の好みの男ってどういうのですか? ほら、普通は守ってあげたくなるような可愛い男の子とか、清楚な男の子とかあるじゃないですか? 身長も自分の胸元ぐらいまでの小ささとか、お尻がかわいいとか、アソコが~とか、テクがすごい~とか」


「ん? そ、そうね……い、いえ、私は守ってあげたいというより……その、ちょっと感情表現が苦手でも心は熱く優しさを持ち、お、男だからって女に守られるのが当たり前とか思わず、その、力もあって努力家で……背だって別にそこまで小さくなくても私と同じぐらいでも……って、お、お尻?! あ、あそ、あそこ?!」



 年頃の若者らしく、少し照れながら好みの男のタイプについてタドタドしくも話し出すアテナであったが、それを見て部下の女は察した。



「はいはい、姫様は『シュラ』を婿にしたいということですね~」


「うぐっ!?」


「バレバレですよ~、ま、恋愛に興味のない男騎士の彼はなかなか難しいですけどね」



 からかわれ、しかしそれを否定できないのでアテナは顔を赤くして頭を押さえた。

 そして、それを誤魔化すように、そそくさと歩き出した。


「う、うるさい。だいたいあなたは品がなさすぎよ! 街でも男の子のお尻触ったり、股間をまさぐったり!」

「ふふん。かわいい男の子のお尻やオチンチン触るのは女としての礼儀ですよ~」

「~~~、ええいもう! 私はとにかく元気なのよ! だから、シュラの所に行ってくるわ! 男に気を使われたら姫騎士の名が泣くもの! というわけで、私はシュラを探してくるから! たかが賊が相手だし、あなたは来なくていいわ!」

「はいはい、デートを楽しんでくださいね~」

「う、うるさいわよッ!」

「押し倒しちゃってくださ~い。シュラだってちょっと脱がしてキスでもしちゃえば大人しくなりますから~」

「~~~~ッ!」


 慌てて愛馬に跨って駆けだす姫。 

 一歩外に出れば、老若男女問わずに誰もが振り返る美貌と、次の瞬間には誰もが頭を下げて跪く天上の存在。




 戦えば、人類最強の姫騎士とまで崇められる武威を誇る彼女は、一人のウブな女として恋をしていた。






――あとがき――

お世話になります。本作、カクヨムコンの短編賞に参加します。


~2021/12/12

ビックリ! カクヨムコン短編賞で、週間総合5位でした。自分で皆さんに「読んでください」と言いながらビックリです。ありがとうございます。せっかくですので、まだ見ていない方々、フォローいただけたらモチベーション上がります。何卒!

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